不在
父さんがグレミオを連れてきた頃は、よく一日中そばにいてくれた。
僕が寂しがっていると思っていたからだ。
それは本当にその通り、僕は一人っ子の甘ったれだったので、よく父さんが遠征に行くときは涙を流して嫌がった。
もう帰ってこない気がして。
だから、グレミオがいつもそばにいてくれるのは嬉しかった。
僕が眠るまでそばにいてくれた。
一度、夜中起きたときに彼がいなくて、パニックになったことがあった。
ああ、グレミオもどっかに行ってしまうんだと思ったから。
それで、それからずっと、テッドがうちに来るまでグレミオはそうして僕の部屋のドアの向こうに座っていた。
夜中泣いてると飛んできてくれた。
グレミオに、僕は甘えていた。
ドアの向こうで夜中中毛布にくるまっている彼の気も知らずに。
10歳になった頃、初めてグレミオがそんなことをしてるって知った。
グレミオは寒い中ずっと何年もそんなこと、続けていた。
僕はもういいよって、言った。だけど彼は断固として譲らなかった。
僕を守るためにも、こうするのが自分の勤めだと。
彼は僕がまだ時々眠れないのを知っていた。町の子供と友達になれなくて悩んでたことを知っていた。
だから、僕を心配していたらしい。
テッドが来て、グレミオと僕の関係は少し変化した。
テッドは僕をあちこちに連れて行ってくれたし、いろいろなことを教えてくれた。
僕が食事中テッドの話をすると、グレミオは嬉しそうにそうですかと相槌をうってくれた。
自然と、グレミオも夜中の待機をしなくなった。
だけど。
この城に来て、僕がリーダーになって、城の最上階で眠るようになると、グレミオはまたそうして入り口の横で座り込んで、彼のいう自分の勤めってやつをはじめた。
僕は、心のどっかで安心していた。
彼はそこにいるんだって。見えないけれど、確かにそこにいるんだって。
今はもう、彼はそこに座ってはいない。
そういえば、彼はそうしている最中、一言もしゃべらなかった。
今だって同じなのに、どうしてもう彼がこの世界にいないって事を確信しているんだろう。
ああ。
彼はもう、死んでしまったからだ。
もう、しゃべらずそこにいてくれた人は、いないからだ。
あの安心感はもうなくて。
そこにあるのは、むねにぽっかりとあいた大きな穴。
中には空虚な自分がいるだけ。
涙と鼻水垂れ流して、声にならぬ声で、名前を呼ぶだけ。
不在