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溢れるもの。

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人生何が起こるかわかったもんじゃない。
もしかしたら明日死ぬかもしれないし、
もしかしたら明日殺されるかもしれない。
もしかしたら宝くじがあたって何億ものお金を手にするかもしれない。
予測不可能で奇想天外な人生なんだから、同性に恋することだってある。
そう思わない?
僕は、そう思う。
きっと佐藤君もそう思っている筈。
だって俺達、付き合っているのだから。

久しぶりの休日、僕と佐藤君はデートしていた。
手をつないだり、腕を組んだりキスしたりは、外ではできないけど俺は佐藤君と出かけるのが好きだ。
だから俺は京を凄く楽しみにしていて。
待ち合わせの時間よりも早く来すぎてしまったくらいだ。
佐藤君はぴったりの時間に来て、「待ったか?」なんて聞くから「待ってないよ」って答えて。何これカップルみたい、と1人でにやにやしていた。

買い物にも飽きて、公園のベンチでぐだぐだ話していた。
佐藤君が急に黙りだしたのでどうしたの、と目線の先を追うと、そこには
1組のカップル。まあ、周りには幾つものカップルが居る訳だけど。
女の方が男の方に腕をからませたり、人目も憚らずにキスしたりしている。

もしかして。
佐藤君実は、女の人と付き合いたい…?
そんな思いが胸をよぎった。

気がつくと俺は涙を流していて。
「っく…ふ、」
「…お、おいどうしたんだよいきなり…!?」
俺の異変に気付いた佐藤君が慌てて俺の背中をさする。
「なん、でもない…っよ、ごめ…ふぇ…。」

腕を引っ張られながら佐藤君の家に連れて行かれた。
涙を流す男をそれを引きずって歩く男。きっとみんな変な目で見ていただろうな。
「で、どうしたんだ」
ソファに座らされ、優しく聞かれる。
「…佐藤君、さ…。女の子と、付き合いたいなら、付き合っても、いい、よっ…」
言い終わるまでにまた涙が出てきてしまった。
何なんだ、涙腺緩みまくってるじゃないか…。
「はぁ?何阿呆なこと言ってんだよ。」
「だって今日、公園でっ…!!カップル、みてたでしょ、羨ましそう、に」
「あぁ…あれな。…俺だってできればお前と外だろうが何処だろうがキスしたりしたい。でも世間体はそうさせてくれない…そう考えると、お前に悪い気がして…。」
「っ…悪く、ない!俺は佐藤君と一緒にいられるだけでいいのに…」
「それは俺も一緒だ。だから、泣くなよ。」
優しく頭を撫でる佐藤君はいつもの何倍も格好良くて。


俺は溢れる想いと涙を止める事が出来なかった。
作品名:溢れるもの。 作家名:89