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言えるはずがない。

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 鬱陶しいなあ。

 ふと思って、竜ヶ峰帝人はコーヒーカップをテーブルに置きつつ、本日何度目かのだんだん数えるのも馬鹿らしくなってきた溜息をこぼした。すると、すかさずそれを聞きとがめた目の前の男は、普段は顔に貼りついているみたいに絶えることのないお得意のさわやかな笑顔をあっさりと消して、不満気に頬をふくらませた。
「ねえ、俺の話きいてる?」
「きいてません」
 コーヒーが苦いなあ、などと思いながら、帝人は返事をする。始めのうちはチョコボンブのケーキがあったからそれほど感じなかったのに、ケーキをとっくに完食してしまった今、砂糖もミルクもなしのコーヒーは、ひたすら苦い。まあそこが好きなので仕方がないのだけれども。
 先程までの男のお喋りを思い返して、ああいうのがマシンガントーク、っていうのかな、と思う。ああでもこの人のはマシンガンというよりなんかむしろバルカントーク? なんて考えていた帝人は気づくのが遅れてしまった。すうっと、言いたいことを言ったときの特有の爽快感が胸に広がるのを感じてようやく、しまった、と思うがもう遅い。
 子供みたいに不満を体全体であらわした23歳は、それでも持ち前のしつけのよさを捨てきれないのか、握り締めたスプーンでコーヒーカップを打ち鳴らすこともなく、テーブルの下で足を蹴りつけてくることもなく、突然喚きだしたりするようなこともなかった。
 ただ黙って携帯を取り出して、ものすごい速さで操作し始める。
 同じく黙ったままで再びコーヒーに口をつけながら、帝人は参ったなぁ、と窓の外を眺める。視線が痛い。不穏な空気を察知してか、先程からフリル付エプロンのウェイトレスが、ちらちらこちらをうかがっているのが窓のガラスに映っていた。
 どうしようかと考えるのも億劫な気がして苦いコーヒーを舌先で転がす。しばらくそうしていると、唐突に制服のズボンのポケットから振動が伝わってきた。コーヒーと同時に煩わしさを呑み込んで、帝人は携帯を取り出し待ち受けを開く。
 そこには予想通り、甘楽さんからメールです、の文字。
 そして開いた途端にどんどん小さくなって、最終的には米粒みたいになってしまった右端のスクロールバーにうんざりする。画面いっぱいを埋め尽くすひらがなと絵文字と記号の群れ、群れ、群れ。
 ピッとそっけない電子音を響かせて指一本でスクロールバーを失業させると、返信メールをたちあげて一言。
 読めません。
 そう書いて送ったメールを見た目の前のお子様は、ますます眦をつりあげて携帯を連打する。リアルだけでなくメールまでバルカントークだなあ、と帝人は溜息のかわりにコーヒーを啜る。やっぱり苦いコーヒーは、すっかり温くなってしまっていて、ますますうんざりする。
 再び届いたメールには、要約するとつまり、帝人君にとって俺って何なの、というようなことが延々と書き連ねられていて、最終的には何だかよくわからない彼の天敵への文句やら部下への不満やらもまじっていた。窓ガラスにはもはや、ちら見どころかこちらをガン見している店員が映っている。
 帝人は少しだけ迷って、返信ボタンを押した。
 数秒の沈黙のあと、目の前で黒い服を着た男が握る携帯が震える。メールの酷く短い内容を読んだらしい赤い瞳が帝人を捉えるより早く、席を立った帝人はレジへと向かった。俗にいうメイド服をきたかわいらしいウェイトレスが慌ててレジにかけてくるのを眺めて、かわいいなあと思う。差し出した伝票に打たれた金額は、普通の喫茶店より少し高かった。なけなしのお小遣いから二人分の代金を払いながらちらりとレジの横のガラス板をみると、携帯を持ったまま、未だに席に座ったままの黒髪の男の姿が小さく見える。
 先に店を出て入り口の近くで立ち止まった帝人の携帯に、一件のメールが届いた。いつもとは違ってとても簡潔に記された内容に、さっき飲んでいたコーヒーの苦味をふと思い出す。メールには置いて行きますよ、と返信したのできっとひとりの嫌いな彼はすぐ来るだろう。
 さて、知り合いに会ったらなんて言おうか、とくだらないことを考えながら、帝人はもう一度メールの受信ボックスを表示しなおして、一番上のメールを開いた。



 俺も好き。これってつまり、そういうことだよね?





 だからこいびと、なんて。
(いえるはずがない)
作品名:言えるはずがない。 作家名:藤枝 鉄