へたくそ!
ふと、マーフィーが隣をみると、コナーの手が止まっていた。もう切り終わったのかと思って顔をみれば、頭はずいぶん半端な状態だ。はっきり言えば、壊れた鳥の巣みたいに見えないこともない。
「コナー?」
「マフ、おまえへったくそだな」
「はぁ!?」
しみじみと言い出すコナーは鏡が見えていないらしかった。
「俺が切ってやる」
「ハゲでも作る気だろ」
「何言ってる。俺をみてろよ、俺がお前の鏡だ」
コナーが言うのがおかしくてマーフィーが吹き出した。
「その頭で? 俺のほうがうまい」
「じゃあその剃り残しはなんだよ」
「うるさいね爆発頭」
「爆発? どこが」
「俺はお前の鏡じゃないみたいだな。鏡みろよ!」
マーフィーは吹きだすと兄弟に鏡を押し付け、けらけらと笑った。でも、すぐに後悔した。
コナーはすぐにマーフィーの頭をつかんだ。
「やめろよ」
反射的に抵抗しようとしたが、コナーの持っているナイフが肌に近すぎた。刃物に怯んで一瞬動きをとめると、勝ち誇ったようにコナーが笑う。
「何笑ってんだよ」
「別に。剃ってやるからじっとしてな」
刃物が、肌に触れる。
暴れると切れてしまうだろうことは間違いがなかったし、腹はたったが同時に得意げな兄弟にあらがうことがまったく馬鹿に思えた。マーフィーは眉屁を寄せるだけで結局、顎を泡まみれにされるまま、髭をそられた。
たしかに剃り残しがなかったとは言えなかったので、マーフィーは代わりに髪を切ってやった。無理矢理に人の髭をそり落としたコナーの満足げな様子にいらだったのが実力行使に至った理由だったが、無理矢理に頭を整えてやれば、あんまりにもひどい髪型だったことがわかったみたいで、コナーは何も言わなかった。
*
2010/05/23