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Im love it.

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幽と一緒に、歌を習った。ちっせーころ。幽とわけなさいと言われたビスケットを渡されながら。


 『ポケットの中にはビスケットがひとつ
 たたいてみるたび、ビスケットが増える』

 

ビスケットをわけるなんて、難しい。ちゃんと等分にわけることなんてできやしない。

まあそれは、いいわけだ。単に腹がへっていたのだ。兄の俺は、幽にやらずにビスケットをまるごと全部食った。









■アイムラブイット




 





 腹が減った。金はなかった。
金がないということに、惨めさを感じたことはなかったが、今度ばかりは困ったものだと静雄は思った。
 空腹感が頭にこびりついて、でていかない。
「静雄くん、お昼いかない?まだトムさんはかえってこないわよ」
という事務員の誘いを断ったのは、失敗だったかと思ったくらいだ。少しくらいの金なら、貸してもらえただろう。
 だけど、一方で金がないくせに、物を食うなんてよくはないという気もしていた。
 だが。腹は鳴っている。

 ひどいものだった。大雨の日の下水口に吸い込まれている水音を思い出す。 昼休みで皆が出払っているために、事務室はがらんとしていおり、そのせいもあって、よく響いた。
 一時間前になったときはこれほどではなかったのに。
空腹度も今ほどではなく、そのときはウィダーインゼリーを買った。何も考えずにポケットを探ったら、312円入っていたのだった。
もったいなかった。こんなに腹がすくなら、もっと腹もちのいいもん買ったのに。
 そのときさえも、ゼリーを一瞬で飲み干し、パックはぺったりと、平らになったのだけれど。 

 静雄は、空になったパックを見ていた。見ていると、母親の姿を思い出した。母親は、歯磨き粉が空になりかかっているチューブから、最後の最後まで使いきりために、鉛筆二本を使って絞りだしていたのだ。目の前の事務員の机の上には、ボールペンが二本ある。もちろん、母親のようなことはしない。
 だが、もう金はなかった。腹は鳴り続けている。
 と、突然、電話が鳴った。
 だが、静雄は電話に出ることを禁じられている。以前債務者からの電話に切れて、電話器を壊したためだ。静雄はまわりを見回す。もちろん腹の音以外に、静雄と一緒にいるものはない。

 静雄は、ため息をついた。気にはなるが、どうせ重要な電話ではない。重要な用件は、電話を介したことはない。直接、使いがやってくるか、携帯電話にかかってくる。
 だが、電話はしつこく鳴っていた。腹の音が聞こえなくなったのはいいことだったが、それでもだんだんいやになってきた。出ろ出ろと、電話が脅迫しているような気分になってくる。
腹はすいているし、電話は鳴り続けているし、イライラする。
昼休みが、終わればまだ気をそらすことができるような気がした。昼だというのに、飯が食えないから、気になるのだ。時計を見つめる。12時半だった。
 自分のような外回りの人間でない普通の事務員の昼休みは、50分。それまでは、まだ20分もあった。

―――なんで、一時はじまりじゃないんですか?キリがいいとおもうんすけど。
―――うーん所長いわくだなァ、人間は、自分に甘いらしいぞ?一時間休憩と決められたら、ほんの少し自分を甘やかす。一時間ともう少しだけ、休む。たとえば1時間と10分後に仕事場に戻ってくる。一日が、24時間以上延びるわけないのにな?だけど、50分と決められたら、1時間ですむ。
―――そんなもんすか
―――まあ、そうだなァ。たとえばお前と一緒に取り立ててもさ、あと10分まってくれっていう人間ばっかじゃねー?10分待ったところで、なにか稼げるわけはなのになァ


 じゃあ、この空腹も、昼休みが終わったところで、まぎわらせられるものでないかもしれない。だが、それを考えるとひどくがっかりする。
 だけど、それを静雄は、少しだけ違うような気がした。
 なんだろう。もっと違う感覚。腹がすいているのは、がっかりするのとは少し違う。似ているけど、違う。ひとりきりで、ノミ蟲を取り逃がして、その後ひとりで部屋に帰るような気分。
 かなしいような気分。
 空腹とは悲しいもんだなあと静雄は思う。
そのとき、ドアがあいた音がした。事務員が帰ってきたのか。昼休みは終わったのか。ということは、やっぱり昼休みがおわったからといって、空腹は紛れないものらしい。ドアがひらき、悲しみが入ってくるのだ。
 しかし、入ってきたのはトムさんだった。
「なんだァ静雄。やっぱいるじゃねーか。電話したのによー?」
「え、」
 あわてて、ポケットを探る。そこにあるはずの形態電話がない。周りを見回し、それでもない。
「トイレじゃね?」トムさんがいう。
トイレをみると、トイレットペーパーのある棚にあった。トイレを探すと、トイレットペーパーのある棚にあった。
「すいません、気がつかなくて」
「事務所の電話にもしたんだけどな」
「あ、すいません、出ませんでした」
「あ、いいのよ。俺が出んなって言ってるんだし。でもお前の分買ってこなかったぞー?」
 見るとトムさんの手には、マックの紙ぶくろがある。揚げ物油の匂いが、漂ってくる。
「なんだっけ。ほら。ゴルフのショーネンがCMしてるやつ」
 期間限定らしいよ?と、楽しそうだ。
「エビちゃん?エビバーガー?」
「エビちゃんは、女だろーが。少年って言ったろー。つかいつのCMだよ」
トムさんは、そうして机の上にポテトとハンバーガーの入っている箱を出した。そうして、シェーキのストローとカップにこちらに差し出す。くれる気らしい。
「あ、じゃあトムさん。お茶、いれますか?」
「ん、そうだな。あとゴルフの少年のファイルもらったぞ。いらねーけどな」
それも、差し出してくる。
「俺だって、いらねっすよ」赤いゴルフウェアで全身を統一した、日に焼けた少年の全体写真が印刷されている。
「マァマァ。お前、朝飯も食ってなかったからよ」
まったく気にした様子も見せずに、もそり、とチキンがはさまっているハンバーガーを半分にし、こちらに差し出した。
静雄はそれを、見つめた。
「ん?いらねえの?」
「いや、腹減ってるっす」
「だろー?」
トムさんの笑った顔に誘われて、静雄は半分のそれを受け取った。頭の中で、母親が「ありがとう」っていいなさいとささやいてくる。だが、静雄はまったく違うことを言った。
「すんません、こんなにくれちゃ、トムさん、おなかいっぱいにならないっすね」
感謝の気持ちよりも、申し訳ないほうの気持ちが強かったからだ。
「そんなことねえよー?ポテト、Lだしな」
 本当に、そんなことはないというように、笑った。
 しかし当然、おなかいっぱいになんて、ならない。当たり前だ。ビスケットを半分に割って、ふやしたところで、全体の量はかわらない。


「夜にサービスしてくれりゃいいから。0円で」
「0円って、トムさん……。いつもただじゃないすか…」

トムさんは、それには答えずにただ、笑った。困ったように。いじわるそうに。すこしやらしい。

「まあ、でもひとりにして悪かったな」
「何いってんすか」
作品名:Im love it. 作家名:しましま