五月の蝿
俺はその後ろから近づき、気配に気づいた臨也が一瞬焦った表情をした。
「あ、シズちゃ…」
何か喋ろうとするそいつのフードを掴み、路地裏まで引きずりこむ。
「……なんでさっきから何も言ってくれないの?なんなの、無視?人をいきなりこんなところに連れ込んで。意味分かんない。俺も暇じゃないんだから早く帰りたいんだけど。ていうかシズちゃん仕事は?君は暇かもしれないけど俺は忙しいの。だからいいかげん放してくれないかな、次の仕事に遅れちゃうんだけど。ねえ、聞いてる?ちょっと。シズちゃん耳ついてないわけ?…ああもう死ねばいいのに」
相変わらず五月蠅い奴だ。
「何か言ったらどうなの、それともシズちゃんボキャ貧だから何も言えないの?いいかげん語彙、増やした方がいいよ。そんなのじゃいつまでたってもまともな会話が成立しないじゃないか。俺が何か言えば五月蠅い、黙れ、ノミ蟲、消えろ…それくらいしか言わないじゃない。それから、苛々してるからって俺に八つ当たりするのやめてよね。八つ当たりが許されるのは中学生までだよ。シズちゃんの精神年齢は中学2年生くらいでとまってるから仕方ないかもしれないけど、だからって俺に…んっ」
ぺらぺらと引っ切り無しに動く口がうざいから塞いでやった。
俺の唇を使って。
「ぷは、…な、なにすんの…!?」
「なに赤くなってんだ。」
「あ、赤くない…!!!シズちゃん、最低っ…!!!」
くるり、と俺に背を向けて走って逃げる臨也。
キスしたら帰ってくれるのか。
じゃあこれからはあいつが池袋に居るところを見つけたらキスしてやろう。
そうすればいつか来なくなるはず。
ポケットから煙草を取り出した。
白い煙を吐き出すと、脳裏にあいつの真っ赤な顔が浮かんだ。