中毒性
それじゃつまらないから。君はそんな現状に満足なんてしてなかっただろうけど、臆病だったから、動けずにいたんでしょう。だから俺が手を引いてあげた。ただ、それだけ。
一緒に踊ってる気分だ、なんて思いながら俺は君からの攻撃から逃げていた。
部屋の隅でこっそり踊っていたはずなのに何時の間にか俺達は祭壇の上で踊るようになった。嗚呼、幸せだ。そう思ってるのは俺だけ?君も同じでしょう!わかってるから。
短い言葉だけで繋がる俺達。
恥ずかしがり屋な俺達は目を合わせるだけで殺意を抱く。
顔も見たくない、消えてほしい、とお互いを毛嫌いしていたのはそれを認めるのが怖かったから。好き、という感情を。
いっそ相手を殺してしまえばいいんじゃないかとも思った。でもできなかった。
だったら、とことん付き合うしかないじゃないか。
「一緒に帰らない?」
「…おう」
俺の誘いに簡単に頷いたシズちゃんに驚く。どうせ嫌だ、とか、死ね、消えろ、うぜえという類の罵声というにはあまりに幼稚すぎる言葉が飛んでくるのかと思っていた。
シズちゃんは帰り支度を済ませて「帰るぞ」と呆然としている俺の肩を軽く叩いた。
恐らく、今までシズちゃんが俺に触れた回数の中で一番優しく。まるで友達かのように。
顔が赤くなるのを感じながら後を追いかける。
「あ、アイス。あそこのアイス、美味しいんだよ」
「へえ…ちょっと待ってろ」
シズちゃんは小走りで俺が指差したアイスクリームの屋台に近づき、アイスを二つ持って帰ってきた。
「ん」
「あ、りがと…」
差し出されたそれをとる。
シズちゃんのはバニラで、俺のはチョコ。
「お前、チョコ好きだろ」
「何で知ってるの…?」
相当驚いた顔していたのだろう、シズちゃんは薄く微笑んだ。
「いつもお前、アイスはチョコばっかり食べてるじゃねえか」
かあああ、と顔が熱を持った。
頭の中では何でそんなこと、いちいち見てたの、なんで、恥ずかしい…という言葉がぐるぐるしていたが口から出たのは「そういえばそうだね、」なんていう阿呆なものだった。
シズちゃんは律義に俺の家まで送ってくれた。
「じゃ、ね。また明日」
「おう、じゃあな。」
家の中に入ろうとドアに手をかける。
「臨也、」
名前を呼ばれて振り返るとシズちゃんの顔が近くにあって驚いた時には既に唇が重なっていた。
「じゃあな」
それだけ言うとシズちゃんは闇に紛れて見えなくなってしまった。
いつもと違うシズちゃんは、神様の悪戯の所為だろうか。
くらくらする頭を押さえて、唇に残った余韻に浸る。
もっと欲しい、なんていう自分の我儘にはもう疲れ果てていて。
今まで無かったものを手に入れるたびに貪欲になっていく。
違う角度から眺める景色はなんて綺麗なんだろう。
ここから見えるものは、あまりにも綺麗で。
もう少しだけ、この感覚に酔っていたい、と思った。