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a foolish man

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「みーかっどくん」

―出た。

語尾に音符でもつきそうな陽気な調子で呼びかけられ、帝人は内心感じた嫌悪を極力隠して声がする方向に振り向いた。

「臨也さん。こんなところで会うなんてすごい偶然ですね。」

普段は絶対に偶然とは思わないのだが、今回は場所が場所だけに偶然と考える他ない。それはそれで自分の運の悪さを呪いたくなるのだが。

ここは、来良総合病院。今朝起きた時になんとなくだるさを感じて熱をはかると38.0℃あった。おまけに喉も痛い。学校に行けないほど辛いわけではなかったが、今流行りのインフルエンザだと困ると思い、念のため学校を休んで受診に来たのだ。

「マスク姿もかわいいね。今日はどうしたの? あ、もしかして妊娠したとか?俺の子だったら認知するよ?」

「……ほんっとに最低ですね」

病院はひどく混雑しており、朝からさんざん待たされてようやく診察を終えた帝人は疲れ切っていた。頭がおかしいとしか思えない質問に怒る気力もない。

「いやだなあ、冗談だよ。そんな腐った生ゴミ見るような目で見ないでよ。なんか興奮してきちゃうから。」

今の発言の一切は聞かなかったことにして、帝人はいかにしてこの状況を切り抜けるかを熱でボーっとした頭をフル回転させて考える。

「今朝から熱があるので病院に来たんですけど、インフルエンザでした。いくらマスクしているとはいえ、あまり近くによって来ない方がいいですよ。移りますから。」

正直臨也がインフルエンザにかかってもまったく申し訳なくないどころか、しばらく会わなくて済むようになると考えるとむしろかかってほしいくらいなのだが、とりあえず今は臨也を遠ざけたい。
そこで遠まわしにどこかに行けといったつもりなのだが、


「ぜんっぜん移してくれてもかまわないよ。ほら、風邪は移すと治るっていうし。あ、キスとかしたら移るかな?じゃあ是非しよう!それで俺が熱だしたら看病してね、帝人くん。」

全くの逆効果で、泣きそうになる。こうなったらもうこの人の気が済むまでつきあうしかないだろう。いっそ熱で意識を失ってしまいたい気分だ。

「臨也さんはどうしたんですか?あ、病気ですか?頭の」

効かないことは分かっているがせめてもの暴言を吐いて見る。

「俺がかかってるのは恋の病だけだよ。しかも治せるのは帝人くんだけ。だから心配しなくても大丈夫。今日は知り合いのお見舞いに来たんだ。」

「へえ、臨也さんにお見舞いに来るような知り合いがいたんですね。驚きです。」

前半の発言に呆れるよりも純粋に驚いて答える。だれかのお見舞いに行くほどの思いやりがあるとは思っていなかった。

「まあ、お見舞いっていうよりは正確には観察かな?壊れちゃった女の子なんだけど、俺は壊れた人間も平等に愛しているからね!もしかしたら何かおもしろい行動を起こしてくれるかもしれないし。そういえば前に本当に予想外のことをしてくれた子がいたよ。あれも愛の力てやつかな?ちょっと痛い目にあったけど楽しかったなァ。」

相変わらず何を言っているのかよく分からない人だ。理解しようとも思わないが。

「何を企んでいるのかは知りませんが、ほどほどにした方がいいですよ。いつか刺されますよ。」

「そうだね。今日はせっかく帝人くんに会えたし、お見舞いはキャンセルかな。俺が看病してあげるから、一緒に帰ろう。」

そのセリフに完全に墓穴を掘ったことを知るがもう遅い。あとはインフルエンザを移してやってしばらく相手が再起不能になることを願うしかなかった。



後日、ピンピンしている臨也を見て殺意が芽生えたのは仕方のないことだろう。

作品名:a foolish man 作家名:kaede