SSやオフ再録
行事:節分(ルック・湊)
「ルックルックルック!見て見てー!!」
魔術師の島。塔の中のとある部屋の棚の埃を払っていたら、聞こえるはずのない湊の声がした。と、背後にドンとぶつかってくる衝撃。
「!?て、湊!?なんでここに・・・そしてその頭と口にくっついてるのは、何・・・?」
ルックが驚いて振り返ると湊が満面の笑みを浮かべてルックにくっついていた。
小さな角と牙を生やしながら。
「俺が連れてきたんだよ?来た事ないから行ってみたいっていうし。」
「うんー連れてきてもらった!!これはねー鬼の角だよ!!」
ドアを見るとニッコリと笑みを浮かべた詩遠が寄り掛かっていた。
「ってまるで自分の家に連れてきたみたいに言わないでよ。そして勝手に入ってくるな!・・・湊・・・君はなんていうか・・・大丈夫?」
「いいじゃん別に。レックナートは気にしてないだろ?」
「僕の師匠を呼び捨てにしないでくれる?だいたいどこで聞いてるか分からないんだからね!?」
「て、大丈夫ってどういう意味だよ!!なんか変な風に心配された!?これはあれだよ、えっと・・・豆。」
「・・・・・・は?」
こてん、と首を傾げつつ言った湊を、ルックはますます痛い子を見るような目で見た。
「あはは、湊、ちょっと違う。ルック、節分だよ、節分。湊に言ったら、“じゃありっぱな鬼に、僕はなる!”てどこかのワンパク海賊少年みたいな事言ってね?」
「ああ、節分・・・。て、この世界の設定まるまる無視するようなセリフはやめてくれない?」
「ふふ。」
ルックがジロリと詩遠をにらんでも、相変わらず不敵な笑みを浮かべるだけだった。そしてそんなルックの袖を湊がひっぱる。
「ねーねー、ルック。だから豆、投げて。いっぱい。いっぱい欲しいの。」
ちょ、なんて言うか、一部ちょっと表現んんんん!!!とルックが少し赤くなってポカンとしてると、その間に近づいて来ていた詩遠がまたボソリとルックにだけ聞こえるように呟いた。
「ムッツリ・・・。」
「っ切り裂・・・ってここ塔だったっ!!・・・とんでもない言いがかりはやめてよね。で、湊。なんでそんなに投げて欲しい訳?そんなに攻撃されたいの?」
呪文を言いかけ、ここがどこか気づいて焦ったように、だがまたジロリと詩遠を睨んでから、ルックは今度は呆れたように湊を見た。
「え、違うよ!それじゃあまるで僕がいじめられて興奮する人みたいじゃん!!」
あながち間違ってないだろ・・・とルックはふとあれの時の湊を思い出す。
詩遠は詩遠で、そんな湊も美味しいよね?と思いつつニコリとする。
「僕はただ単に豆が欲しいだけだよー。詩遠さんが言ったもん。災いを追い出して福を呼ぶ儀式なんでしょ?で、災いを鬼で表現して、その鬼の格好した人に豆投げるんでしょ?」
「儀式って・・・。まあ、そうだけど。」
「じゃあタダで豆、いっぱい手に入るじゃん!!炒った豆でも煮豆出来るかなー?そのまま食べてもいいけどおかずにはならないし・・・。」
「「・・・。」」
2人はさすが湊だと感心した、色んな意味で。
「・・・なんでそうなるんだよ・・・まったく・・・。それに湊。いちおうさ、豆は食べるのは歳の数だけなんだけど?」
その瞬間の湊は、2人とも可哀そうで見ていられないほど(いや実際は可愛くておかしかったけど)、驚き落ち込んだ様子であった。
「ほんと可愛いよね?あの子は。」
「・・・ある意味とてつもなく痛いけどね・・・。」
「あらあらルッくんだら相変わらずねー。とりあえず晩御飯だけどさー?」
湊が放心してぼんやりと節分の豆を食べている間(ていうかすでに歳の数以上食べてる、とルックは心でつっこんだ)に、詩遠がルックに言った。
「・・・は?晩御飯て、何。何勝手に食べていくつもり満々な訳?君、遠慮って言葉、知ってる?」
「言葉は知ってるよ?俺の辞書にはないけどね?いいじゃん、お前も湊ともっといたいでしょ?で、晩御飯ね。」
詩遠は飄々としたまま続ける。
「やっぱあれだよね?巻き寿司のまるかじり。」
「ああ、そういえばどこかの風習でそういうの、あるみたいだね。僕はてっきり寿司屋の策略かと思ってたけど。」
「ほんと相変わらずで何より。とりあえず、それにしようよ?」
ニッコリと言う詩遠に、ルックは首をかしげながら、“別にいいけど・・・”と答える。
「良かった。やっぱせっかくだしね?ほら、湊が美味しそうに丸かじりしてるとこ、楽しみたいじゃない。」
とてつもなく良い笑顔で言う詩遠をルックは、それこそ鬼の形相で見た。
「この・・・変態が!!」
そして晩御飯には綺麗にカットされた巻き寿司が出てきました。
湊はそれを美味しそうに食べながら、ニッコリとだが黒い笑顔の詩遠と、なぜか勝ち誇ったような表情のルックが見つめ合って(にらみ合っている、とも言う)いるのを不思議そうに見ていた。