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あの子どんな子?そういう子

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あの子どんな子?そういう子




静雄に、帝人のどこが好きなのかと聞いてみた。
最初は目を丸くして何をいきなり馬鹿なこと聞いてやがるんだ手前は、なんて罵られたけど、
俺が本気で聞いてるのに気付いたらしくて、そのうち黙って考え出した。

きっと、今の俺は上手く笑えていないだろう。
頬の筋肉がひきつっている感覚がある。
彼の前では上手く笑うことができない、頬の筋肉がそんなことをさせるか、と言ってきている。
敵、というよりも、ライバル、と言った方が近いのかもしれない。
ライバルに対して笑顔でいなければならない理由がどこにある?と、全身が聞いてくる。
作れないのは笑顔で、抑えきれないのは敵意であろうか。
そう、敵なのだ、ライバルなのだ、目の前の彼は。
だって、目の前にいる平和島静雄という存在は、帝人のことを好いているのだから。
俺と、同じように。

「……怖がらないところだな。」

ぽつりと静雄が言葉を落としていった。
それと同時に、彼の指の間に挟まれていたタバコの灰も言葉と同時に落ちていく。
怖がらない、と言った。
それはつまりあれだろう、街灯を引っこ抜いてケンカするような男に対しても恐れを抱かないということなのだろう。

「最初は小動物みてぇにびくついてたんだけどな。なんか……、いつの間にか会ったら笑顔で挨拶してくるようになって。」

おい、お前それは惚気とかそういうヤツじゃないか?

「怖くねえのかって聞いたら変なことを聞かれたような不思議な顔するんだ。」

なんだかオオカミとヒツジの光景を想像しちまうなあ、配役ぴったりな気がするけど。
でも、と、静雄は続ける。
一度だけタバコを吸って、煙を吐き出す。
空気に溶け込んでいくタバコの煙のように、その後の静雄の言葉は俺の耳に溶けていった。


「怖がらねえから、どうやって接すればいいのか分からねえ。」




お前はどこが好きなんだよ、と聞いてみる。
帽子のせいでやや隠れてしまっている瞳は色を宿していない。
いつも女とへらへら笑っている時とは全く違う感情を見ると、こんな野郎でも本気になることがあるのかと少々驚く。
その本気になることの内容が、自分と同じであろうことなのが複雑な心境にさせるのだが。
つまりはこいつも俺も同じ野郎に惚れているということだ。
何でこんな女ったらしが男に惚れるのかも分からないが、自分だって同じようなものかと自嘲する。

「そりゃあ、可愛いとこだよ。」

思考を遮るかのように千景の声が響く。
顔と声には笑みを含んでいるが目は相変わらず無表情だった。
作り物めいた人間には嫌気がさす。
感情を抑え込んでどうするというのか、と言った気持ちもあるし、自分が感情を抑えられない分腹立たしいのかもしれない。

「最初は俺に対しても怯えてたけどそこも可愛かったし、最近は少しは笑って話しかけてくれるようになったしさ。
またナンパですか、って呆れた顔で笑ってくれるところとかも可愛いだろ。
目はくりくりしてるし、おでこはつつきたくなるような感じだし、いやもうガチで可愛いじゃねえか。」

その意見には大体賛成するが、それでもあいつのことを嬉しそうに語る姿にはイライラする。
思わずタバコを持つ指に力が入りそうになった時に、でも、と俺と同じように言葉を続ける。
その顔も声も、先程からの瞳と同じように色を失くしていた。


「可愛いのに、かっこいいから困っちゃうんだよなー。」


ウチとダラーズが本気で潰しあうことになったらどうする、なんて冗談で聞いてみたのに。
急にまじめな顔して、大切な人たちには手出しはさせません、絶対守ってみせますなんて言うんだ。
容赦はしません、なんて呟いちゃうんだもん、参っちゃうよなあ。




「なー、帝人って知り合いの人たちのことどう思ってるんだよ?」

「何、いきなり。しかも知り合いの人たちって誰のこと?なんか日本語変だし。」

「日本語とか気にするなよ!あー、例えば平和島静雄さんとか?」

「静雄さん、うーん……最初は怖い人だなあって思ってたけど、ちゃんと話してみたら無愛想だけど優しい人だし、
普段は大人しい印象だよね。しかも喧嘩になるとすっごく強いしかっこいいと思うよ?」

「へー……、後はそうだなあ、なんか埼玉の人とよく話してるじゃん?あの人どんな人よ。」

「千景さんのこと?あの人もちょっと怖い感じだけど、昼間はいっつも女の人と歩いてるからねぇ。
ちょっとそこらへん正臣と似てるよねえ。ナンパ大好きなところとか。
でも一回だけあの人のケンカ見たけど、すっごく強くてかっこよかったよ。
普段は笑いながら話しかけてきてくれるし優しい感じだけど、やっぱりそういうところのギャップはあるよねえ。
うん、二人ともちょっと憧れるなあって思うよ。」

「憧れねえ……、まあいいや、とりあえずその千景さんって人とは話が合いそうだな!」

「あはは、そうかもね。今度会ったら紹介するよ。」

「二人とも、おまえにとっていい友達って感じか?」

「うーん……、年上の人を友達って言うのもちょっとあれだけど……、でも僕はそう思うよ。」


かわいそうだなあ、と、この時正臣はぼんやりと思った。
帝人が本当に目をキラキラと輝かせて何かを好きになるのは、非日常のカテゴリーに入るものだけなのだ。
いつの間にか彼の日常に組み込まれてしまった彼らは、きっと帝人の中の輝くものには入らないだろう。
首なしって噂の黒バイクなんかはいつまでたっても彼の中での非日常ではあるのだろうが。
誰よりも帝人の日常に入り込んでいる正臣は、ひっそりと笑いながら心中で呟く。
ようこそ、と。
いつか誰かに言われたように、この世界へよくやってきたね、と彼らに言葉をかけたい。
彼の日常へようこそ、ここは彼の世界であるけれども、それ以上でもそれ以下でもないのだと。
その中にいることが幸せである自分は良いとして、きっと帝人のことを好いている彼らには悲しい現実であろう。

「報われないもんだねえ。」

「え?何か言った?」

「いーや、何も。……あ、それ一口くれよ。」

「あ、いいよ。それにしても今日もいい天気だねえ。」

「んー……、絶好のデート日和ってやつだな。帝人も杏里誘ってどこか行ってこいよ。」

「そんなこと……!!……はあ、正臣は彼女いるからいいよねえ。」

「羨ましいだろー。っつーかこれうまいな、もう一口。」

ぱくり、もぐもぐ。

難しいねえ、悲しいねえ、報われないんだろうねえ。

ただそれだけの、出来事。

穏やかな昼下がりの、少しだけの憐憫。





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Tさんに捧げる六帝静…六帝静…なの…?