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誰も寝てはならぬ!

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劇場の照明がぱっと付いて、まだ席に着いているのはゾロとサンジくらいだった。
 そういえば昔、中学生だったころの話だけども、女の子とデートで映画館に来たことがあった。その女の子はサンジがいまいち興味を持てないアニメ映画を見たがって、まあ結果としてサンジもそこそこ楽しんだのだけれど、今みたいに照明がぱっと付いた瞬間女の子はこう言ったのだった。「ねえ、もうちょっと座ってようよ?」。
 思えばそれは何かのサインだったのではないか? と、今更思っても無駄で、サンジはぼんやり映画の余韻に浸って女の子の手を握るどころか話しかけることさえできず、明るい劇場で馬鹿みたいに真っ白なスクリーンを見つめていたのだった。
 余韻に浸りたいからエンドロールは見なきゃなんて、そんなかしこぶった奴サンジは大嫌いだけど、確かに読めもしない外国語がずらずらと流れているのをぼんやり眺めながらサンジはいつも柔らかな椅子から離れ難い気持ちになる。それはなんとなく、夜を明かさないまま帰る恋人を見送る気持ちに似ていた。
 ――ただ、サンジがまだ椅子に張り付いているのは、別にそういうわけではないのだけれど。もっと現実的な理由がある。
「ゾロッ。てめえいい加減、起きやがれ!」
 別に、ゾロはちゃんと自分の入場料を払ってここに座っているのだから、人に迷惑を掛けさえしなければどんなことをしたって自由だとは思うけれど。しかし、開始5分、オープニング映像が流れるより前に寝息を立て始めるのはやはりやりすぎだろう。
 置いて帰ってしまおうかとも思うけれど、冗談でなく寝汚いこの男が目覚めるまでに、どれだけの劇場スタッフに迷惑を掛けるのかと考えればそれも憚られた。
「……起きろ、ゾロ、起きろ」
 起きない。
 今日見た映画はまた随分と馬鹿げていて、ハッカーがテロリストと戦うだとかいう最近流行りの政治色てんこ盛りストーリーだったくせに、ラストシーンでは爆風に倒れたヒロインに主人公がキスをして眠り姫よろしくヒロイン覚醒――なんて、それはどうなんだ、と、ロマンチストを自負するサンジですら突っ込みたくなるようなオチを迎えたのだけれど、致命傷を負った人間が生き返るくらいなのだからキスひとつで寝汚い男を目覚めさせるくらい、実はたやすいのではないか……。
 しないけど。
 サンジは諦めて、劇場の中途半端に柔らかな椅子に深く体重を預けた。明るい劇場というのは、なんだか間抜けだ。何も映していないスクリーンの白がやけにぽっかりと大きくて、でくのぼう然としている。
 認めたくはない話だけども、サンジと映画を見に来ると、ゾロはいつもこうなのだった。開始5分、ないし10分後には必ず眠りに落ちている。要するにゾロは映画に興味がないのだ。
 ゾロを映画に誘うのはいつもサンジだ。ゾロは出不精で、ゾロから告白してサンジと付き合い始めもう1年も過ぎようというのに、積極的に表へ連れ出されたことはない。むしろ、サンジがゾロを、映画やら公園やらショッピングやら、いろいろと連れまわしている。
 認めがたい話だ。
 実に女々しいが、サンジはゾロが外出を好まない性質だと知りながらそれでも、ゾロの自分への愛情を試すためにそうして無理矢理連れまわしているのだった。サンジのために、“外出を好まない性質”を捻じ曲げるゾロが見たい。随分高飛車な思考だ。それはわかっている。
 結局ゾロはいつだって開始5~10分には寝るのだけれど、サンジも、そんなゾロが好きなのだ。そのことも、わかっているのだ。
 ただ、ほんの少しでいいから、『The End』のファンファーレで飛び起きて、エンドロールの間中冷や汗をかき、劇場が明るくなると同時に泡を食ってサンジに話を合わせて「ああ、あれは良かったな」とか「あそこは笑ったぜ」とか、そんな知ったかぶりをするゾロが見たい。
 ――それは愛というより、従順に近いものだとは、わかっているのだけれど。
「ん……おお、終わったのか」
「10分前にな」
「わり」
 その、「わり」は、サンジを待たせたことへの、「わり」だ。
(……俺は、案外ロマンチストなんだぜ、ゾロ)
 サンジがじっとゾロをにらみつけているのにも気付かないで、携帯の電源を入れたゾロは「おお」とひとり呟く。
「もう昼だ」
「どっかで食ってくか?」
「いや、お前作れよ。俺の家で」
「仕方ねーェなァー……」

 まったく、ロマンの欠片もありゃしねえ。
作品名:誰も寝てはならぬ! 作家名:ちよ子