結局俺はお前を見つける
時刻午前零時過ぎ。とある男子寮の一室。俺は部屋に設置されている狭い寝台の中。
日向が不意に小さな声で、飲んでいたペットボトルから口を離してよく分からない質問をしてきた。
「どうしてるって……何を?」
「俺が中出ししたの、処理し忘れた時……ぶっ!」
全部を言い切らない内に俺が投げた枕が、日向の顔にクリーンヒットした。
転がるペットボトル。あぁ、中身がもったいない。どうせ日向のだから別にいいけれど。
「よし、今からそこの窓から飛び降りて死んでこい」
「いやいや、音無! 俺ら既に死んでるじゃん! これ以上は無意味だって!」
「痛みという罰を与えられる。プラスお前がこの部屋からいなくなってくれる。服を着る猶予はやるからさぁさっさと飛び降りろ」
「いやここ俺の部屋!」
そう言って俺が投げた枕を拾い上げる日向は上半身は何も身につけておらず、そして俺の方はさらにひどく、被っている布団を剥がされたら生まれたままの姿が拝めるだろう。
「第一なんでいきなりそんな事訊くんだよ?」
「んー……、いや何て言っていいんか適当な言葉が思いつかないんだけど……」
日向にしては珍しく曖昧な、要領を得ない言い方をしながら今度はペットボトルを拾い上げて蓋をきっちり閉める。
床に僅かに広がった透明な水は、後で片付けるんだろうか。
「何だよ。思いついたままでいいから言ってみろよ」
「……非生産的な事してんなぁって。だっていくら音無とこうゆう事してても、中に熱を残しても結局負担になるだけで何も生み出さないなぁって思ったら……」
「……お前、馬鹿だと思ってたけど本当の馬鹿だったとはな」
「な、何だよっ。俺、これでもちょっとは真剣に思って……!」
そうまだ何かを言いたがる日向に俺は手を振って手招きした。
身体は痛いし、快楽の残滓でだるいし俺は正直動きたくなかったから。
それを日向も分かっているのか何も言わずに、俺が横になっているベッドにまで来て乗り上げてきた。
その首に両腕を絡ませて、俺の方へ引き寄せてやる。
「うわっ!?」
「あのなぁ、好きな奴の存在をこれ以上ないほど近くで感じられる事以上に生産的な事があるのかよ」
そうして俺は笑ってやった。
「なに音無、カッコいい……!」
「まぁそれでもどうしても気になるっていうんだったらそうだな……。次生まれ変わる時に日向。お前、女になって生まれてこい。そうしたら俺がお前を見つけ出してやるから」
「え、俺が女!? どう考えてもこの場合は音無だろ! というか女じゃなきゃ見つけてもらえないのか!?」
「心配するな。お前がフジツボになっても洗濯バサミに生まれ変わっても見つけ出してやるから」
「よりによってそのチョイス!?」
そう日向が叫んだ後、部屋の中に一瞬沈黙が生まれて、それから俺達は二人で小さく笑い出した。
「ほっ、本当……なんでそのチョイス……」
「あ、ありえねぇ……。フジツボ……。洗濯バサミ……」
それからは何も言えずにしばらく笑い続ける。
「はー、笑った笑った。でも俺達、生まれ変わりたくなくてここにいるんだからしばらくはこのままだな」
「あぁそうだな。でもさっきの生まれ変わっても見つけ出してやるっていうのはすっげー嬉しかった。だから音無さ」
「? 何だ?」
日向が俺の髪に触れて、やけに男らしい笑顔を浮かべて口を開く。
「俺も見つけ出すよ。音無が女でも男でも、本当に何に生まれ変わっても俺も音無を見つけ出すから」
それがあまりにもカッコよくて心臓が跳ね上がったなんて、絶対に目の前の日向には言ってやらない。
作品名:結局俺はお前を見つける 作家名:端月沙耶