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いいことづくめの夢から覚めた

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僕と染岡くんには悲しいかな体格差がある。
それは同じ男として少し複雑なところではあったけれど僕より染岡くんが先に成長期を迎えたことは誰のせいでもないし何より僕の心境的な問題以外にとくに問題などなかったので構いやしなかった。
そんなたったひとつの引っ掛かりさえも染岡くんがひとつ、あの大きな両手を広げあの低く唸る声をふるわせ僕の名を呼んで微笑めばどこかへ吹き飛んでしまう。
なんなら、抱き締められた時にうまく彼の中に収まりきる僕の成長スピードを感謝さえする。
染岡くんは僕を抱き締めるときに優しく毛布のように抱き締めてくれる。
がさつな彼からは想像できないようなとてもしなやかで繊細で、まるで僕を潰してしまうことを恐れているかのようにそっと、優しいのだ。
抱き締められた先の胸に耳をあてるとどくんどくんと立派な鼓動が僕までを揺らす。まるで大地から唸り響く地響きだ。少し高い体温、雄々しい鼓動、優しい腕の拘束。そしてなにより彼に抱き締められているという充実感。
僕は幸せに胸を揺らした。

「吹雪」

右の耳から響くように、左の耳から降り注ぐように僕の名前が紡がれる。
いつか、下の名前で呼んでくれないかな、なんて贅沢を胸に含んでとびきりの笑顔で呼ぶのだ、
「なぁに、染岡くん」
と。彼を見上げるとさっきまで確かにあった彼の少し厳つい顔も、同い年とは思えない立派な身体もなくなっている。まわらない頭でぐるりと視界を回すと離れた場所に彼は佇む。
「はやくこいよ、吹雪」
こちらを振り向かない彼は僕よりも長い足で歩く。そのスピードに段々と離されてしまってぼくは言った。
「まって、そめおかくっ」
ん、という音は地面に吸い込まれて消える。顔から綺麗に転んだ僕はすぐに泥まみれの顔をあげて彼の背中を探したけれどもうどこにもありはしない。
擦りむいた鼻の頭に手のひら、それに膝小僧。どくどくと響いて血を流すのに痛みなんてなかった。僕は一旦ぎゅっと目を閉じてからもう一度開いた。
すると僕をおいて先に行った彼の寝顔が寝息の聞こえる距離にあるし僕の顔はつるんと美しい肌をしている。
はぁとため息をつこうとして息を吸ったら後頭部に寝返りをうったキャプテンの右手がグーであたって痛くて泣いた。

染岡くんの体温なんて、僕は知らない。