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夢を語る少年のひとみ

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練習を終えてくたくたの帰り道だというのに一之瀬は朝5時に起きてこれからディズニーランドに行くかのような輝かせた目でこちらをみてそして言った。

「土門に娘ができたら、その子を俺にくれないかなぁ」


「はぁ?」

滑舌の良い口の動きでもって発する言葉は、しかし頭に素直に入る事を脳が拒否して口から抜ける。

「俺、土門には幸せになってもらいたいんだ。優しくて気配りのできる人と結婚して、子供は2人くらいほしいよね。女の子と男の子、できれば女の子が先がいいな。土門が23くらいの時に産まれるんだ。いや俺はね、いくつの時でも構わないしいつまでも格好良い男でいる努力をするつもりだよ?でもさ、やっぱりそんなに歳が離れていても土門の娘に悪いし、奥さんだってきっと複雑だろ?だからせめてはやいうちにな、俺が40で土門の娘が16、このくらいならなんとかなるだろ?でさ、やっぱり名前はあすかがいいんだけどー親と同じ名前ってつけられないんだっけ?ちょっと調べてみるからさ、もし大丈夫ならあすかがいいな。あっ大丈夫、漢字まで一緒にしろとは言わないから!こうさ、口に出したときの響きだけでもう満足だから贅沢は言わないよ。い、ち、の、せ、あ、す、か、ね。いいだろ?憧れるんだよなやっぱり、男のロマンっていうかさー!そうそう勿論長女だからさ、家は継がせられるように俺が嫁ぐよ。あっでもそうすると婿入りになるから俺が土門かずやになるのか、うーんそれは考えてなかった。悪くないけど…やっぱり一之瀬あすかには敵わないかなぁ。だから二世帯住宅でいいと思うんだよね。もちろん一軒家!大丈夫、金は俺がだすよ!その頃にはばんばん稼いでる予定だから心配しなくていいぜ!まぁもしばんばんとはいかなかった時のために貯金してるから今から貯めとけば一緒に住む頃までには結構な額になるかなぁって思ってさ、ちょっと前にはじめたんだ。まぁ、まだまだちゃちなもんだけど、ちゃんと続けるから大丈夫だよ。そうそうそれで話が反れちゃったけど犬をね、飼いたいんだ。憧れなんだよー一軒家で犬!やっぱりマイホームをもつ以上これは定番だけど、はずせないよなぁ。そういえばさ、土門は孫とかほしいの?まぁ俺土門の娘なら抱けないことはないと思うけどどうだろ、勃起する自信はあんまりないんだよなぁ…だからやっぱり孫はもう1人の子供に期待してほしいんだ。まぁ自分の大事な娘が俺に犯されたと思うよりはそっちの方が土門もいいだろ?だからさ、」
「ちょ、ちょちょ、ちょ、あのさ、い、ちのせ」
「なに?あ、やっぱり一人娘の子供はみたかったりする?なら俺も土門のためにがんば、」
「ちがうっ、」
「あれ?あっ一軒家よりマンションのがいい?まぁ確かに、一軒家は泥棒入りやすいっていうしマンションのほうが、」
「ちがう、」
「え?あっわかった!犬より猫派なんだろ!いいよいいよ、猫も飼おう!犬と猫って小さいときから一緒にしておくとケンカしないらしいし、だいじょ、」
「そうじゃなくてっ!」
「どうした、土門?気に入らないところあったら土門のいいようにするから言ってよ」

キラキラと輝かせた目で俺を見る。見るな。こっちを見るな。そんな目で、俺をみるな。

「なんだよそれ、なんで俺の娘がお前と結婚すんの?なんで俺は娘に俺と同じ名前つけなきゃいけねぇの?なんでお前と一緒に暮らすの?お前が俺の娘とセックスするとかなんなの?なにいってんの、お前」

一之瀬は目をキラキラさせたまま俺に近付くために一歩、また一歩と歩み進める。俺はといえば自分のうしろに塀があって行き止まりなことを知っているのであえて動かなかった。
蛇に睨まれた蛙のように、もう逃げられないことを知っている。

「なんで怒ってんの、土門」
「怒ってんじゃないよ、お前が何を言ってるか理解できないっていってんの」
「なんで?」
「なんでって、だからっ」

逃げられないことを、知っているんだ。

「だからね、俺は土門には幸せになってもらいたいんだってば。だけど俺さ、
土門から離れるなんてごめんなんだよ。だから娘と、土門の子供と結婚したらいいんだって思い付いたの。だって俺と土門じゃ結婚できないし、できても、いやそりゃ俺はこれ以上ないくらい幸せだけど、俺お前が普通に女の人と一般家庭を築きたいのしってるし、俺じゃそれは無理だからさぁ。俺が幸せになりたいからって土門の幸せになるための権利を奪っていいわけじゃないし。だけど娘は土門じゃない。土門じゃないなら別になんだっていいだろ。土門の変わりなんて誰にもできないけど、あすかって名前なら愛せるかもしれない。それにいちのせあすかっていう響きは何度も何度も呟いてきたんだ。大事な1人の娘だ、どこの馬の骨ともわからないようなやつにとられるより小さい頃からずっと知ってる俺にとられたほうが土門も安心だろ?しかも二世帯したいって娘の旦那が金を負担するんだ。いまどきいないだろ、そんな婿。そしたらさ、土門は娘と一緒に暮らせて幸せ、俺は土門と一緒に暮らせて幸せ。土門も俺も幸せだ。」
「おまえ、はぁ?お、れの…俺の嫁さんと娘はどうすんだよ、そんなの幸せなわけないだろ…そんなの…どう考えたって幸せにはなれないだろっ」
「えっ」

一之瀬はその大きな、まっくろいどんぐりみたいなめんたまを光らせていうんだ。

「なんで俺が俺と土門以外の幸せを考えなきゃいけないの?」

まるで、サッカーを語る時のように。
ふんわりと笑って、いうんだ。


「俺はさ、土門には幸せになってもらいたいんだ」

作品名:夢を語る少年のひとみ 作家名:ナカタ