草原でダンスを
「おう」
公園のベンチには、セルティと静雄がいつものように座っていた。これまたいつものように二人の間には缶入り飲料が二つ置かれ、静雄は紅茶の方をセルティに手渡す。首のないセルティには必要ないものではあるが、静雄は毎回毎回何か飲み物を準備して待っていてくれる。
「そうだ、これやるよ」
[?]
ぽすん、と何かヘルメットの頭に置かれる。改めて外して見ると、それは白詰草の冠だった。葉も花も入り混じっていて、とても綺麗に編めているとは言い辛い。
しかし、確かに冠だったのだ。
「あー、暇でな。力をコントロールする訓練だと思って、苦労したぜ」
だからお前にやるよ、と少し照れ隠しに笑いながら静雄は言う。煙草を踏み消して、いつ誰に教わったかすら覚えていない草花の冠の編み方を未だに覚えていたことを少しだけ誇りに感じた。
セルティは冠を手に持ったまま、じっと固まっていた。
これを?静雄が?私に?
じわりと嬉しさがこみ上げてくる。この一本を編むためにどれだけの白詰草が犠牲になったかを考えると少し胸が痛むが、手の上にある重みは、確かな信頼の証と感じ取れた。ヘルメットの上に乗る大きさでも、実際はセルティの首周りより大分大きい。かぽ、とヘルメットを外してそれを首に引っかけると、冠からネックレスに早変わりした。
[可愛いか?]
振り向くとそこに静雄はいなかった。公園の一角、まるで嵐が草花をさらっていったようになっている場所にかがんで何やらしている。近づいて背中を叩くと、次の瞬間セルティの手のひらにはひとつの白詰草の指輪が置かれていた。
「こんなのも作れるんだぜ」
誇らしげに静雄は言う。そしてそれをセルティの指にはめて、満足げに頷いた。
「ん。やっぱお前、妖精だわ」
深夜セルティから静雄に送られたメールには、冠に埋もれる四つ葉のクローバーの写真が添付されていた。
20100524