二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【幻水2】花の言葉【カミマイ】

INDEX|1ページ/1ページ|

 
足の下でかさかさと音がたつのか面白い。
 マイクロトフは枝や落ち葉を踏み分け、もう薄暗くなり始めている森を急いでいた。
 マイクロトフがこうして歩いているのは、カミューとの約束のせいだった。この先の丘で会う約束だった。
 カミューが待っている丘はもうすぐそこだった。木々の隙間から差し込む陽光に、マイクロトフは意気揚々と走り出していた。
 そして、森を抜けたとき、その巨大な太陽がマイクロトフを迎えた。燃えるように赤い大きな円。その周りをとりまく、花嫁のベールのような薄い雲は、美しい青みを帯びた朱色に染まり、彼を魅了した。
「マイクロトフ」
 地を照らしている朱色の夕日を後ろにカミューは立っていた。逆光で表情は見えなかったが、きっと微笑んでいるのだろう。
「綺麗だ……」
 マイクロトフはゆっくりとカミューの横まで歩く。
「子供の頃と全く変わらないな、お前は」
 とけるような目つきになったマイクロトフをカミューは笑う。少しふくれてカミューを向くと日を浴びて髪が黄金に輝いて美しい。
「カミューも…変わってないぞ。昔、一緒に夕日を見たときもその髪が輝いていて綺麗だと思った」
「お前の髪も赤くなっている」
「そうなのか? じゃあ、カミューと一緒だな」
 髪を押さえて嬉しそうに笑うマイクロトフの手をカミューは握った。それに気づき、マイクロトフもカミューを見つめ、静かに顔を寄せ合う。
 静かに唇が重なり、すぐに離れた。
 二人は目を合わせ、少し笑った。
「マイクロトフに」
 そういってカミューが差し出したのは、小さな花束だった。マイクロトフは驚きながら受け取るが、まばたきを繰り返しながらその花を見入る。赤と紫のチューリップに、カスミ草が飾られていた。
「…俺に花束は似合わないだろう」
 苦笑するマイクロトフに、カミューは笑って首を振った。
「この花束はマイクロトフにしか似合わないよ」
「は、恥ずかしいことを言うな! 馬鹿」
「ははは、ごめん。でも、どうしてもマイクロトフにあげたかったんだ」
「………ありがとう。でも、俺は何も用意してないぞ。……すまない、カミュー」
「気にすることはない。私はお前がいてくれるだけで充分だ」
「だから…そういうことを……」
 口ごもって赤くなってしまうマイクロトフを笑いながら、カミューはその手をにぎった。てれながらマイクロトフもその手をにぎり返す。

 二人の想いが通じてちょうど一年たった日だった。






 二人は森を向け城に向かった。途中、カミューは愛馬を見てくると、夕飯の約束をして別れた。
 花束を抱いているマイクロトフの姿は、城中の人の目を引いた。マイクロトフはとりあえず、花瓶に活けなくてはと青騎士担当のメイドを訪ねた。
「これはこれは、マイクロトフ様。綺麗なお花をお持ちですのね」
「ああ、これを執務室に置きたいのだが、花瓶はあるか」
「ええ、すぐご用意いたします」
 メイドは花束を受け取ると、いったんテーブルの上に置き、奥へ入っていった。マイクロトフは近くにあった椅子に座る。
「あら、マイクロトフ様。後は私が執務室にお持ちしますわ。お戻りになって結構ですのよ」
 メイドは戻ってくると、座って待っているマイクロトフに驚いた。
「あ…いや、自分で持っていくからいい」
「ふふふ。大事な花なのですね」
 赤くなって言う団長にメイドは微笑んで言う。
「マイクロトフ様はこの花の名前を知っていて?」
 リボンをほどき、花を水につけて切りながらメイドは聞いた。
「チューリップだろう? それとカスミ草。それくらい俺だって知っているぞ」
「なら、花言葉はどうです?」
「花言葉?」
「花に象徴的な意味を持たせた言葉です。薔薇だったら純愛とか、ユリなら純潔とか」
「おもしろいな。ではチューリップは?」
「博愛と思いやり…だったと思います」
「博愛…思いやり…そうなのか」
「ええ。でも色によっていろいろ変わるんです。これは赤と紫ね」
「それは?」
「申し訳ありません。そこまでは詳しくないですわ。ああ、そうだ。確か本棚に花言葉辞典があったと思います。それを差し上げますわ」
「あ、いや、別に……」
「遠慮なさらずに。読んでみると結構面白いですわよ」
 メイドは花瓶に花を活けると、本棚から辞典取り出してきて花瓶と共にマイクロトフに手渡した。
 マイクロトフは視線を浴びながら花瓶を持って執務室に向かった。中に入ると誰もいない。副長が気になったが、すぐに戻って来るだろうと深く考えなかった。
 日が沈み暗くなったので、灯台に明かりをともす。
 花瓶を自分の机に置くと、可愛らしい花を見つめ、嬉しさに微笑んだ。花言葉のことを思い出して、もらった辞典を開いてみた。
 チューリップ、チューリップと呟いて、「ち」の項を開けチューリップの名前を探した。程なくして見つかり、目を留める。

『チューリップ:博愛、思いやり、華美、まじめな愛、親しき愛の表情』

 メイドが言っていたとおり、思いやりとある。まじめな愛、親しき愛の表情、と読むとマイクロトフの頬は薄く染まる。
 あいつは花言葉を知っているのだろうか。
 そう思いつつ読んでいくと、花の色分けで書いてあるのを見つけた。色によって意味が違うと聞いたのを思い出して、マイクロトフは読み始めた。

『チューリップ(赤):愛の宣告、美しい瞳』
『チューリップ(紫):永遠の愛情』

 ぼぼぼっとマイクロトフの顔が赤くなる。
「永遠…って……あいつは……」
 花言葉を知ってるな。
 マイクロトフは熱くなった顔を手で押さえる。こんなことを知ってしまって、後でカミューにどういう顔で会えばいいのだろう。「恋人にこの花を贈るとき……」
 備考の欄に書いてあった一文に目が留まる。

『紫・黒→「私の心臓は、恋焦がれて炭になっている」の意』

 マイクロトフは目を見張る。

『紫はプロポ−ズの意味もある』

 その文を読んで、マイクロトフは勢いよく立ち上がった。両手で口元を隠し、花瓶の花を見つめた。
 そこには、赤いチューリップと、紫のチューリップ。
 熱いものが胸からこみ上げてくる。
 体中の血液が沸騰しそうになった。
 先程のカミューの言葉を思い出す。
「この花束はマイクロトフにしか似合わないよ」
「どうしてもマイクロトフにあげたかったんだ」
 あれはそういう意味だったのか。
 マイクロトフはこみ上げてくる何かに耐えるよう、きつく目をつぶった。
 心臓が破裂しそうなほど早く鳴っていた。
 その奥に甘くすっぱいものが湧き出てくる。
 嬉しい。
 恥ずかしい。
 どうしよう。
 カミューが。
 好きだ。
 そんな気持ちがいっぺんに頭を駆け回って、マイクロトフはしばらくそうして立ち尽くしていた。





 閉じた瞼の裏に、カミューが笑っていた。