二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

誕生日◆乾海

INDEX|1ページ/1ページ|

 

「乾、誕生日じゃん!」
 高い声が聞こえ、海堂は思わず振り返った。
 菊丸が猫のように乾の肩にぶら下がっていた。困ったように乾は笑って、自分を囲んでくる 友人からの洗礼を受けている。複数の手が乾の頭に回り彼のかたい髪をかき回すのを海堂は眺めていた。
 誕生日なのか。
 照れくさそうに笑う乾を見つめながら海堂は自分がそれを知らなかったこと残念に思った。自分はなんて抜けているんだろう。どうして好きな相手の誕生日を知ろうとしなかったのだ。知っていたら何か用意できたはずなのに。
 自分の情けなさに気持ちが暗く沈んでいく。海堂は肩を落として自分のつま先を見つめた。
 笛の音と顧問の声に顔を上げる。名前を呼ぶ顧問の声に乾の周りに集まっていた三年たちがコートに戻っていく。祝いの名目で友人たちに好き勝手された乾はぐしゃくしゃになった髪やジャージを整えていた。笑いながら鼻にしわを寄せて、コートを走る菊丸に文句を言っている。
 自分も一言でいいからお祝いの言葉を伝えたい。そう思い、海堂はフェンス脇の乾の元へ足を進めたが、その足がとても重い。まるで砂の上を歩いているように足元がおぼつかず、海堂はその時になってやっと自分が緊張していることに気がついた。
 なにを緊張することがある。たった一言「おめでとう」を言うだけじゃないか。激しい動き始めた心臓にそう言い聞かせるが、海堂の指はぶるぶると震え始める。
 しかし、ただの後輩がそんなことを言うだろうか。さっきも集まったのは近くにいた乾の同級生ばかりだった。しかも男同士で誕生日の祝いなんてあまり聞かない。変に思われないだろうか。気持ち悪いと思われるかもしれない。
 やめようか。でも。でも、それでも。
 歩み寄る海堂に気がつき、名前を呼ぶ前に乾と目があってしまった。
「いっ乾先輩」
 声が裏返った。海堂の呼びかけに乾は姿勢を直し、どうした?と笑う。
 乾の微笑みを見たとたん、海堂の顔はカアアッと音を立てて真っ赤になった。赤くなったのは顔だけではない。耳や首、それから全身に火が移る。
「あっ、あのっ…っ」
 背筋が緊張のせいでまっすぐ伸びた。肩にも力が入り、石のように体がかたくなった。乾のことなど見ていられず、視線をあらぬほうに飛ばす。
 自分が赤面していることが海堂自身もわかっていた。どうにかしようにも顔色の操作などできるはずもない。動揺していることを乾に知られてしまうことが恥ずかしくて、さっさと言って立ち去ってしまいたかったのに、なかなか思うように話せない。
「たっ、たんじょう、び」
「ん?」
「お…おめっ、おめっ…でっ」
 心臓の音がばくばくと太鼓のように耳元で鳴り、海堂はもう自分が何を言っているのかわからなくなった。
 桃城からマムシとまで呼ばれる強面の自分がなんて様だろう。乾先輩にもいつも生意気な態度ばかりとっているのに、ただ一言にこんなに恥ずかしがっているなんて。
 こんなふうでは乾に不審に思われる。乾にの目に自分がどう移っているのか考えると止まらず恐ろしくて唇がわなわなと震える。
 ふふ、と乾が笑った気配がした。再びカアッと海堂は顔が熱くなった。もうこれ以上赤くなれないというほど赤くなっていたはずなのに、まだ赤くなれたのかと海堂は泣きそうになった。こらえるように唇をかむ。
「…ありがと」
 ふいに乾の気配が近づいたかと思うと、照れたような声が耳元で聞こえ、頭をぽんと大きな手が撫でていった。
 え? と思ううちに乾が自分の横を過ぎ去る。あわてて振り返ると、乾はうつむいて後頭部を掻きながら水道場に向かっていった。
 頭に暖かい手の感触と、耳元で聞こえた乾の声。
 顔から伝染した熱が体中に広まって、海堂は崩れるようにしゃがみこみ頭を抱えた。
作品名:誕生日◆乾海 作家名:ume