グッバイ・アーリーバード
プロローグ
あの瞬間を今でもまだ夢に見る事がある。
まだ駆け出しだった頃の事だ。
とある作戦に参加した時に、傷を負った。
命に関わるような傷ではなかったけれど、
嫌悪と、後悔の入り混じったか細い謝罪の言葉と、彼女のつけていた柔らかい香りが自分の血の臭いに染まった瞬間を。
そしてオレを刺したその女の後ろには、見慣れた影。
教官、撃たないでくれ。
その女は悪くない、話を握られたのはきっと、オレの――――
遠くに銃声が響いたそこで、夢は途切れている。
かつての士官学校時代の教官に、何故軍人になったのかと問われた事がある。
その時は別に、「東部の田舎の雑貨屋なんてつまらないと思ったから」とか在り来たりな答えを返したはずだ。
東部から出てきて中央に来た時には、もうちょっと何か具体的なものがあったかもしれないが、本当の所、理由なんて漠然としたものでしかなく。ある程度の流れに流されるままだったのは否めない。
ただ、あの夢に見るまでの事件が、きっと引き金を引いた。
『お前はまだ若い。ヘタに固まってしまうよりも、もっと世界をよく見てくればいい』
あの時は頷くしかなかったけれど。
時折疼く傷を抱えたまま、いまだに答えを出せないままでいる自分を道連れに、東へのチケットを手に取った。
人間、生きてる間に運が悪ければ厄介事関連に見舞われる時がある。
で、そう言う時はきまって大挙して押し寄せてこられるのが常だと。
思えばはじまりは鮮烈だったと言えばそうかもしれない。
道が交叉したあの瞬間、何か見えない力に押し流された気がする。
ただ、後悔はしていない。
口にする事はないだろうが、それだけは、たぶん絶対に。
作品名:グッバイ・アーリーバード 作家名:みとなんこ@紺