お決まりで、安易で、やるせなくて、でも暖かくて
スペインとケンカをした。きっかけなんて、もう忘れた。
「はなさへん!!」
きっとくだらないことだったのだと思う。俺が喚いて、スペインに言い返されて、更に俺が切れて。
いつもどおり、止まらなくて、止まらなくて。もう止めなければ、いつか取り返しのつかないことになるんじゃないか。そう思った時、俺の手が堅く繋ぎとめられた。
「お前なんか嫌いだ!」
その手の熱さに頭に血が上って、いえばスペインが傷つくとわかってる言葉をいっても、ぎゅっと手の先から伝わるじんじんとした痛みが止むことは無い。
しびれて、もう痛くて、それでもスペインは俺の手を放さない。俺の言葉に一瞬スペインの表情が歪んで、俺がしまったと思って。
「嫌いだ!」
それでも、俺は自分で自分を止められなくて、もう一度繰り返す。
酷いことをいっているのは俺なのに、傷ついているのはスペインのはずなのに。
「……泣かんといて、ロマーノ」
目の奥からつんとした感覚がこみ上げてきて、俯いているのは俺だった。
何で、どうして、心の中でぐるぐると繰り返しながらも、いつの間にか頬に暖かいものが伝わっていくのを感じる。
目の奥の熱さが、鼻の奥、頬、唇へと伝わって、自分が涙を流しているのに気づく頃には、俺の頭を優しい大きな手が撫でている。
「俺、お前に泣かれるの、よわいねん」
心底困り果てた声が、頭の上からする。俺を怒らせて、泣かせたスペインなんか、一生困ってろ。
心の中で毒づいた言葉は、舌にうまく上らない。
ただただ首を振る俺に、スペインはため息をはいて、強く握ってた手を離す。
それから大きな腕が俺をすっぽりと覆って抱きしめてきた。
ケンカすると、おさだまりの、安易な解決方法。
俺達は今日もこうなるとわかっていても、けんかをすることをやめられない。
きっとこれからも、ずっとこうやってケンカをしては、繰り返し続けるのだろうと思った。
作品名:お決まりで、安易で、やるせなくて、でも暖かくて 作家名:かづき