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彼の望む日常な僕が憧れる非日常な彼

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「ほら。」
「ありがとうございます静雄さん。」

自販機やポストなどを容易に持ち上げる彼の手から差し出されたのは、赤いまん丸な林檎飴。僕は、僕が好きな静雄さんの低めの声が促す通りに、静雄さんの手から林檎飴を受け取った。一瞬だけ、僕と静雄さんの温度が触れ合って、ドキリと心臓が跳ね上がる。加えて、見上げる先の静雄さんが嬉しそうに笑うものだから、僕は赤くなってるだろう顔を誤魔化すために目の前の林檎飴を舐めた。当然だけど、林檎の甘酸っぱい味じゃない甘ったるい味が口の中に広がる。嫌いではないけれど、舌先にべたつく甘さがほんの少し居心地を悪くさせた。

「うまいか?」
「はい、久しぶりに食べました。懐かしいです。」
「そうか、なら良かった。他に欲しい物とかあるか?やりたいこととか。せっかく来たんだから遠慮しなくていーぞ。」
「ありがとうございます。」

静雄さんの優しい、穏やかな問いかけは、間違いなく僕だけに向けられている。ほんのり優越感。まとわりつく夜の空気が気にならない程度に僕は浮かれていた。街灯よりもやわらかい提灯の明かりに照らされて、静雄さんの人工的な金色の髪がキラキラと僕の目に映る。

(うれしいな。)

ふわふわと宙に浮いたような気持ち。行き交う人達は僕の隣を歩く人があの平和島静雄だと気がつかない。いつものバーテン服ではなく、ラフな私服に身を包んだ静雄さん。僕が今日初めて知った私服の静雄さん。僕に合わせて歩く速度を緩めてくれる。隣に僕がいることを数歩おきにちらりと確認してくれる。

(ちゃんと気付いてるんですよ?)

なかなか触れてくれない静雄さんの手が、今日はやけに僕に近づいてくれることも。近づいた後に、ほんの少し辛そうな顔をして離れていくことも。それに対して僕がどんな気持ちなのか、静雄さんは知らないだろうけど。僕は、静雄さんから与えられるものならなんでもうれしいのに。あなたは、とても臆病な生き物だ。

「静雄さんは食べたいものありませんか?僕ばっかり食べて、なんかすみません。」
「ああ、いや、俺は、別に腹へってねーし。気にしなくていいから。お前が謝ることないって。」

わたわたと人目も気にせず慌て出す静雄さんの頭の中は僕のことでいっぱいなんだろうか。そうだったらいいなと思う。そうであればうれしいと思う。

「それじゃあ、少し歩きましょうか。花火までまだ時間あるみたいですから。」
「そうだな。」

僕がにこりと微笑めば、静雄さんの顔はふにゃりと緩んだ。可愛い。

ぼんやりした提灯の明りで夜から浮かび上がった道を歩く。少し前を歩く静雄さんのおかげで人とぶつからないで、スイスイと歩けた。道にそって並ぶ屋台と楽しそうな人達を追い越していく僕の足取りは軽い。ここにあるたくさんの日常の中で僕の非日常は進んでいく。この周りの人から見たら僕と静雄さんはどんな風に映るのか、兄弟、先輩と後輩、友達?

(恋人同士、には見えないよね。さすがに。)

僕だけが知っている。僕だけの非日常。

「静雄さん。」
「なんだ?」
「手を繋ぎましょう。」

林檎飴を持っていない方の手を、無防備に揺れていた静雄さんの手に絡める。一瞬ビクリと反応したその手は、僕の手を拒みはしないが、握り返すこともしてこない。今の僕にはそれで十分だった。静雄さんの背中からはその表情は読み取れなかったけれど、金色の髪から覗く耳が赤いことに気付けたから。

「花火楽しみですね。」
「おう。」
「帰りにもう一度お参りしていきましょうか?」
「おう。」
「明日はお仕事ですか?」
「おう。」
「静雄さん。」
「おう。」
「林檎飴、食べますか?」
「おう。・・・は?」

一端立ち止まり、くるりとこちらを向いた静雄さんの口に林檎飴を押しつける。

「んっ。」
「甘くておいしいですよ。」

先ほどと同じようににこりと微笑めば、静雄さんの顔はみるみる赤くなっていった。僕が林檎飴を退かす気がないことを知ると、おずおずと林檎飴の少しへこんでる部分を舐めた。

「静雄さん。」
「・・・なんだ?」
「間接キスですね。」

引き寄せた林檎飴に唇を寄せて、そう言えば、静雄さんは赤い顔をさらに赤くさせて、口をぱくぱくさせた。言葉が出てこないようだ。繋いだ手の体温が心なしか上がっている気がする。つられるように僕の指先も熱い。

「な、え、霧が」
「竜ヶ峰です。」
「あ・・わりぃ。」

罰が悪そうに顔を歪めて謝る静雄さんを追い越して、一歩、二歩、前に進んで振り返る。お互いに力を込めていなかったせいか、繋がっていた手が簡単に離れていく。あなたは傷ついた顔をして、繋がっていた右手を握りしめ、僕を見た。いつもかけているサングラスがないため、静雄さんの瞳の中が良く見える。僕だけをいっぱいに映したその悲しげな両の瞳に、僕の心はゾワリと歓喜に震えた。

「帝人です。静雄さん。」
「りゅ、」
「帝人、ですよ。」
「・・み、かど。帝人。」

背後から笛のような音の後、ドーンと空気を震わせる大きな音。花火が始まってしまったらしい。提灯よりも明るくてたくさんの色の光が静雄さんを照らして、それはきれいだったけど、僕だけを映していた静雄さんの目に花火が入り込んでしまっていた。残念。

「帝人。」
「はい、静雄さん。」
「手、繋ぎてぇ、いいか?」
「・・はい!」

差し出された静雄さんの手に僕の手を乗せると、静雄さんは安心したように笑った。全然力が込められない手を握って、今度は僕が前を歩く。今の僕には十分すぎる出来事。

「帝人。帰りに、わたあめ買っていいか?」
「もちろんいいですよ。たい焼きもクレープもチョコバナナも。」
「りゅ、」
「帝人です。静雄さん甘いもの好きなの知ってますから。言いだしてくれるの待ってたんですよ。」
「あー、その、ありがとな。気遣ってくれて。」

静雄さんが隣に並ぶと、すぐに彼の歩調はゆっくりになった。僕は、林檎飴をもう一舐めして、甘ったるいその味を楽しんだ。

花火の音が止まない。

「来年もまた来ましょうね。」
「なら、今度は浴衣着て来いよ。」
「じゃあ、静雄さんも着て来てくださいね。」

僕も静雄さんも、お互い、空を見ている余裕なんてなかった。