恋と苦さとやせ我慢
健二は佐久間の手の中のコーヒー牛乳を、指差しながら小首をかしげる。
「大丈夫ってなんだよ」
「それ、小岩井のだよ」
健二の言葉に佐久間は盛大に眉をしかめた。
「ゲッ」
顔に似合わずお子様味覚の佐久間は、極甘のコーヒー牛乳しか飲めない。
紙パックを親の敵のように睨み続ける佐久間に、健二は呆れた顔でため息をつきながらも、
手を伸ばしひょいと自分の紙パックと佐久間のそれを入れ替える。
健二の買ってきたのは佐久間の好物である、甘い甘い砂糖たっぷりの雪印コーヒー牛乳だ。
「な!?」
健二の行動に佐久間はびっくりしながらも、慌てて止めた。
「変えてやるよ」
「いいって」
「素直になっとけって。飲めないだろ?」
「飲めるって、大きなお世話」
押し問答をしながらも、二人の間で小岩井コーヒー牛乳が踊る。
「いいって言ってんだろ」
佐久間は強引に紙パックを取り返すと、すばやく口をあけてストローを刺し、一気に中身を
吸い込んだ。
「…………まずーーーーー~~~~」
口いっぱいに広がる微妙な苦味に、眉間の皺は深くなり、目の端には涙が滲む。
しかも健二と押し問答をしたせいか、泡立った上にぬるくなっていて、美味しくないことこの上ない。
「まったく、無理するなよ」
泣くほど嫌なら素直になればいいのに。
呆れ顔でため息をつく健二を、佐久間は上目遣いで睨みながらも、もう一度紙パックに口をつける。
好きな奴に世話を焼かれるなんて、かっこ悪いことはごめんだ。
恋は手の中のコーヒー牛乳のように、ただ甘いだけではなく、微妙な苦さが口に残る。
佐久間は自分の中の恋心を飲み込むように、残りのコーヒー牛乳を一気に吸い込んで、空になった
紙パックをゴミ箱へと放り投げた。