ぬくもり
ビデオデッキのデジタル時計を見ようと上体を僅かに起こしたところで、腰に激痛が走った。声にならない悲鳴を上げて、ごろりとベッドに転がる。と、肩に一つの体温が触れた。思わず見返してみるも、体温の主は規則的な寝息を立てて自分がぶつかったことに対して気付いてすらいないようである。よかった、とほっと胸を撫で下ろすと、再びそっと膝を抱えて目を閉じた。じんじんと痛む腰はどうできるものでもなくて、ただひたすら、今は眠りの世界に誘われることを待つだけ。幸い、千歳はそれが得意であった。どろりとまどろむ夢の世界に、引きずり込まれるように堕ちていく。ああ、このまま自分も相手も目が醒めなければ良いのに、なんて不埒なことを考えた。そうすれば、こうして一緒に肌を重ねた相手と共に、長い時間を過ごすことが出来るのだから。考えながら、何て間抜けなことを考えているのだろうと自嘲した。時間に制約があるからこそ、たまにある逢瀬が愛しいというのに。
眠りに落ちるタイミングを逃してしまった。僅かに身動ぎすると、隣に眠るその姿が僅かに動いたのがわかった。起こしてしまっただろうか。そっと薄く目を開いて見上げると、そこには変わらず閉じられた相手の双眸があった。ほっとして再び瞼を閉じると、そっと髪の毛に長い指が絡む感触がした。何だ、やっぱり起きていたのか。そう言葉を掛けるのも野暮な気がして、今はただ、その手に自分の身を委ねた。