堕ちる
「俺の弟は笑うと天使みたいなんだぜ!!」
そう言って兄さんはいつも俺を自慢していた。
俺はそれがとても嬉しかった。
自慢されることがじゃない,兄さんが笑うからだ。
別に自分が天使のようだなんて思ったこともない。
でも彼が言う天使の微笑みをいつも彼に向けていた。
愛する人に笑っていてほしいと願うのは幼少のときから変わらない。
でも俺が成長すると俺のことを天使など呼ばなくなった。
鍛えられた体,オールバックの金髪,太く低い声。
まったく容姿が変わった俺に対して兄さんの笑顔は変わらなかった。
俺が兄さんの身長を越してもその笑顔は変わらなかった。
少し小さく感じるようになった背中も,ほっそりとした指の手も,
まるで兄さんが歩んできた道そのものを表しているかのような赤い瞳も,
何も変わっていない。
俺は思うようになった。天使は俺じゃない,兄さんだ。
小さく佇む花のように笑う兄さん。天使と言っても過言ではない。
しかし綺麗な花ほど虫が寄る。
兄さんの美しさに魅了され,沢山の奴らが寄ってきた。
汚い奴らだった。そんな奴らとつるめば天使が汚れてしまう。
だから寄せ付けなかった。極力そんな奴らから兄さんを避けてきた。
それ故に兄さんの国としてのプライドを踏みにじり,その顔ともいえる鷲の紋章を汚し,
その偉大な名前すらも奪った。誰も兄さんに近づけたくなかった。
しかし今も兄さんは俺に笑いかける。咎められても仕方のない俺に
笑顔を向ける。
今兄さんは俺の家に住んでいる。国としての権限を奪われてから俺と同居している。
少し複雑な気分になるときもあるが,今は幸せだ。
そんな俺たちを引き裂くように届いた報せ。
「東西の壁」? イヴァンの野郎だ。
俺の家を二つの分け,東に兄さんを置く。
二人の間には壁を建てる。
一番に浮かんだ疑問は「何故」だった。
考える必要もない。分かっていた。
イヴァンは兄さんを欲しがっていた。
頭の中に嫌な映像が流れる。
兄さんがイヴァンに襲われている。
嫌だった。俺ですら触れたことのない兄さん。
兄さんを守ってきた騎士といえど,天使には触れられない。
触れたら粉々に散ってしまう,そんな感じがしたからだ。
そんな兄さんがイヴァンに無理矢理奪われる。
兄さんが壊れてしまう。
うなだれる俺に兄さんは笑いながら言った。
「大丈夫だ。俺はお前の兄貴なんだぜ。
すぐケリつけてくるさ」
そう言っていなくなった兄さん。
その日からもう何年経っただろうか。
そう言って兄さんはいつも俺を自慢していた。
俺はそれがとても嬉しかった。
自慢されることがじゃない,兄さんが笑うからだ。
別に自分が天使のようだなんて思ったこともない。
でも彼が言う天使の微笑みをいつも彼に向けていた。
愛する人に笑っていてほしいと願うのは幼少のときから変わらない。
でも俺が成長すると俺のことを天使など呼ばなくなった。
鍛えられた体,オールバックの金髪,太く低い声。
まったく容姿が変わった俺に対して兄さんの笑顔は変わらなかった。
俺が兄さんの身長を越してもその笑顔は変わらなかった。
少し小さく感じるようになった背中も,ほっそりとした指の手も,
まるで兄さんが歩んできた道そのものを表しているかのような赤い瞳も,
何も変わっていない。
俺は思うようになった。天使は俺じゃない,兄さんだ。
小さく佇む花のように笑う兄さん。天使と言っても過言ではない。
しかし綺麗な花ほど虫が寄る。
兄さんの美しさに魅了され,沢山の奴らが寄ってきた。
汚い奴らだった。そんな奴らとつるめば天使が汚れてしまう。
だから寄せ付けなかった。極力そんな奴らから兄さんを避けてきた。
それ故に兄さんの国としてのプライドを踏みにじり,その顔ともいえる鷲の紋章を汚し,
その偉大な名前すらも奪った。誰も兄さんに近づけたくなかった。
しかし今も兄さんは俺に笑いかける。咎められても仕方のない俺に
笑顔を向ける。
今兄さんは俺の家に住んでいる。国としての権限を奪われてから俺と同居している。
少し複雑な気分になるときもあるが,今は幸せだ。
そんな俺たちを引き裂くように届いた報せ。
「東西の壁」? イヴァンの野郎だ。
俺の家を二つの分け,東に兄さんを置く。
二人の間には壁を建てる。
一番に浮かんだ疑問は「何故」だった。
考える必要もない。分かっていた。
イヴァンは兄さんを欲しがっていた。
頭の中に嫌な映像が流れる。
兄さんがイヴァンに襲われている。
嫌だった。俺ですら触れたことのない兄さん。
兄さんを守ってきた騎士といえど,天使には触れられない。
触れたら粉々に散ってしまう,そんな感じがしたからだ。
そんな兄さんがイヴァンに無理矢理奪われる。
兄さんが壊れてしまう。
うなだれる俺に兄さんは笑いながら言った。
「大丈夫だ。俺はお前の兄貴なんだぜ。
すぐケリつけてくるさ」
そう言っていなくなった兄さん。
その日からもう何年経っただろうか。