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彼を占拠する全てが憎らしくてたまらない

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「どうして。……家康は、」
 彼は毎日うなされているという。夜になると主が殺される夢を見るのだと。試しに見に行くと三成は床を這うようにして喘いでいた。
 もう使い物にならない足に仕事をさせる訳にもいかないが、しかし輿に乗ったまま襖を越えるには入り口を開け放たなくてはならない。しばし考えた後にゆっくり、音を立てないように襖を開けて閨へと侵入した。枕許に置いてある行灯の所為で壁に自分の形をした影が映る。
「もう、心配はなかろ」
 包帯まみれの手で頭を撫でてやれば、少し落ち着いたのか心拍が遅くなった気がする。
 彼も可哀想な男だ、と思う。吉継が考えるなど些か滑稽だけども、三成には足りないものが多すぎた。しかも、それを埋め合わせる方法が間違っているのだ。
誰かを盲信し、付き添い、それを全うして。それでしか人の世に紛れられない異端児である。
「哀れな男よ、もう従うべき男はいぬのに」
 殺されてしまったのに、と撫でる手はそのままに教え聞かすよう聞かせてやる。
「ぬしの主は横暴な政治をし過ぎていたのだ。力でしか全ては解決出来ぬと謳い、実際に暴力で静粛したのだから、きっと本望であろ」
 はは、と吉継は乾いた自嘲にも聞こえる笑い声をあげた。手を三成から離せば、腕をきつく握らせ、肩を震わせる。気を抜けば、目から涙が出てしまいそうなまでに吉継の目は潤んでいた。
 どんなに望んでも三成の世界に吉継が踏み込む事は許されない。なぜなら彼の世界は秀吉様、それだけで回っているから。
 正直、家康の反逆は願ったり叶ったりであった。吉継は三成がもう主の名前など出さないだろうと高をくくっていたのだ。
 けれど三成が秀吉様を忘れる日なんて来やしないようだ。寝ても起きても彼の頭は秀吉様と主を殺した家康ばかりを考えている事に嫉妬した。吉継は目の前にいるのに、死人やもう敵でしかない男ばかりに執着する三成が憎かった。
「この気持ちはなんであろうな、われにはわからぬ」
 さっきから話しかけていたからか、三成がごそごそと動き始めた。もう逃げる気さえ起きない吉継は、その起きる様を見つめるしか出来ない。
「……刑部、どうしてここに?」
 覚醒しきれていないのかきつい吊り目でなく、どろりと溶け出しそうな瞳が吉継を見る。
「ぬしの呻き声が聞こえたがら来ただけよ」
 目線がかち合う前に吉継は焦点を行灯へと移していた。彼を見たら悔しくて泣き出してしまいそうで、避けるしか得策が思いつかなかったのだ。
「それは悪い事をした。すまない、刑部。いつも迷惑ばかり掛けている」
 三成は上半身を持ち上げれば吉継を前にするように座り直した。三成の目は酷く純粋な色合いをしている。
「別に、なんともなかろ。ぬしこそ魘されていたが」
 三成は何も言わないままに、吉継に抱きついた。予想もしていなかった行為に吉継はバランスを崩したものの三成が抱き留めた。
「刑部。私はもうわからない。秀吉様も死んだ、半兵衛殿も亡くなった、半兵衛殿と両兵衛として名を馳せていた官兵衛殿は離反した。私の周りから人が段々と居なくなっていく」
「みつな、」

「もう私には刑部しかいないのだ。お願いだ、私を裏切るな。……捨てないでくれ」

 三成が吉継を先程よりきつく抱き締めた。着流しの薄い布だけでしか隔てられていないので、吉継はうっすらと汗ばんだ肌を身体中で感じた。寝起き特有の暖かさは吉継の荒んだ心を落ち着かせていく。
「われはぬしを裏切らぬ。裏切る理由など持ち合わせておらぬのでな」
 吉継が背中をさすってやれば、それに促されたように三成は大粒の涙を零した。声はひとつもあげずに、泣く姿に吉継は何も言わずに背を撫でていた。
「刑部、刑部……」
 ひたすら名を呼びながら三成は泣き続けた。
 吉継は何をしたらわからなくて狼狽していた。泣き止ませてやりたい、悲しませたくないと思うのに自分がどうしていいのかわからないのだ。
「三成。ちゃんとわれはここにいる」
 そう言ってやる事しか、出来ない。