花と問答
近寄れば仄かに、しかしその密やかさにそぐわない存在感を持って薫る。
【花と問答】
今日は酷く風が強い。路地の至る所で渦を巻き塵を舞いあげている。
山崎は市中見回りをしながら、想いを馳せる。
この風が花を盗って行ってしまわなければ良いが。
山崎は時折、その水仙に話し掛けている。
返事は無いに決まっているが、
監察方と言う立場上、
口外出来ず心に秘めなければならない事柄も少なくない。
身内すら欺かなければならない事も、ままある。
心の淵から溢れて零れた内緒事を黙って物言わず聴いていればそれで良し。
最近も奇妙に過激派の攘夷浪士にこちらの行動が筒抜けな時期があった。
土方の命令で暫く真選組を内偵した結果、
スパイが潜りこんでいた事が判明した。
攘夷浪士と通じていたのは地方から出て来たばかりの、
未だ幼さが見受けられるほど若く、愛嬌のある少年だった。
突然姿を消したその隊士について近藤には田舎に帰ったと告げたが、
秘密裏に土方が粛清した。
恐怖で震え泣き喚き許しを乞う人間を斬るってのはどういう心持だろうか?
耳の内に命を求め息の限り叫ぶ声音が甦る。
悲痛な叫びに心も揺らさず罪悪感に囚われず情をかけない俺らは未だ人だろうか?
局長はホントの事知ったら、殺めた命を想ってきっと泣く。山崎は思う。
局長は本物の人間だから。
屯所に戻るなり、裏庭に急いだ。花を見遣れば、在った。
しかし、
ポキリ。茎折れて地べたを這う。
山崎はしゃがみ込んで折れた花を見つめる。
吐く息が震える。泣き出しそうだ。人よりも花の命が重い。
そんな俺は未だ人だろうか?
この花にも何度問掛けたことだろう。
瞬き一つ。涙一粒。利き手で拭って、
再び花をつけた時、答を唄いださぬよう球根からひっこ抜く。