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飯食え

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ホットプレートにお好み焼きの種を落とすと、熱々の鉄板がじゅう、という音と小さな煙を上げ、それに被せる様に対面に座ったルシファーも小さく「おお」と声を上げた。
キャベツの水分が鉄板全体に引いた油に落ちてぱちりと跳ね、直ぐに蒸発した。
ルシファーは机に頬杖をついてホットプレートで焼かれているお好み焼きをじいっと観察している。
大人しいなと思えばしれっと「まだ食えねえの?」と言う。
未だ裏返してもいないのにどれだけ腹が減っているんだ、こいつは。
全く。待てねえならこいつでも食ってろ。
その一言を「ん」の一文字に置き換えて、こいつが手土産として持ってきた林檎を差し出せば「まだいい」
とだけ言って皿を此方に押し返し、再び頬杖を付き先程と同じ待ちの姿勢に戻った。
再び無言の時間が流れる。
プレート上のお好み焼きはいい感じにじゅうじゅうと焼けてきていて、皿の上に置いてあるフライ返しを手に取った。
ルシファーは相変わらず無言で行儀悪く机に頬杖をついていたが、フライ返しを持った途端に視線が俺の右手に移る。

「裏返すぞ」
「ん」

そろりとお好み焼きの下にフライ返しを差し込んで、手首を反転させてくるりと返す。もう一枚も同じく。……よし。
ぺたんっ、じゅうっと音を立て、我ながら綺麗に裏返せた事に満足すると、ぺちんぺちんと対面から気の抜けた拍手が聞こえた。
肘を机に付いたまま、猫背気味の体勢は変わらずぺっちんぺっちんと拍手をしているルシファー。
その姿勢はタンバリンを叩く猿の玩具を思わせるような光景で、少しだけ吹き出しそうになる。

「すげえ」
「ん」

褒められたことに悪い気はしなくて、ふわりと気分が浮上する。
そして、また無言。
あの時は結構煩い奴だと思っていたのに、全然喋らないことに意外さを感じるが、この沈黙は苦痛じゃない。
頃合いを見て少し捲って見ると綺麗に焼き跡が付いている。
念の為に竹串を刺して、何も付かない事を確認。

「皿」
「おー」

焼き上がったお好み焼きを自分の皿と相手の皿に分ける。
とろりとしたお好みソースとマヨネーズ。鰹節と青海苔も振りかけて、完成。

「うまそ」
「食え」
「食う」

ルシファーは行儀なんてちっともなっていない様子で、机に肘を立てたままがつがつと貪るように喰いついた。
これは足りなくなるな。と思いながら、空いている左手でまたホットプレートの上に種を落とす。
自分だって行儀が良いとは言えないが、この盛大な食いっぷりは見ていて不愉快にならないギリギリのラインだと思う。
まあ、そのギリギリを保っているのが、元天使、という肩書ゆえのことなのだろうか。

「うまい」

ぽつり、と呟かれた言葉に耳を疑った。
何と返したらいいのか反応に戸惑うと、ルシファーは不機嫌そうに顔を歪める。

「なんだよ」
「……不味いって言われんのかと思った」
「実際美味ぇし。お前と喧嘩する義理なんてねえじゃん」

シッダールタの鍋はきっぱり不味いなんて言ってたくせに。
俺は言い知れぬもやもやを内に抱えながらも、しれっとそんなことを言ったルシファーが言葉を続ける。

「それに、お前は俺と仲良くしたいんだろ?」
「っは……はぁ!?べっ、別にそんなんじゃねーし!!俺はっ…別に一人でも構わねえけどっ!これもわざわざお前が来るから買い足したとかじゃなくってキャベツが余っただけだしな!?仲良くとか……意ッ味分かんねえ!!」
「はっ、やっぱお前おもしれ」

やっぱってなんだ。おもしれってなんだ。
笑いながらりんご食う?と差し出した皿から一欠片齧る。
ルシファーが勝手にお好み焼きをひっくり返そうとフライ返しを持った右手を軽くべしんと叩いてやった。
そのぶーたれる姿に、まあ別に、仲良くしてやらない事も無い。……とは、思う。

勿論!少ぉしだけだけどな。
作品名:飯食え 作家名:桐風千代子