ヒオウ・ヒナタ~~溺愛魔王と俺様~~
庇護2
「や、進んでるー?こっちはぼちぼちだったよー。」
少し前にクライブと消えたヒナタがニコニコともどってきた。
2人の手にはいくらかの鳥や獣。
何の種類かは不明だがどうせ狩らなくとも放っておけばこちらを襲ってくるような獣のようである。
「あ、お帰りなさい。あたし達がおしゃべりしてる間にヒオウさんとルック君が頑張ってくれてたよー。野菜切るヒオウさん、かっこよかったー。」
「お帰りヒナタ。無事だったようだね。」
座って女の子らしく会話に花を咲かせていたナナミとアイリが答えた。
ナナミが言ったように、向こうではなにやら2人でやっているようである。
「ちょ、あんた何するつもり!?何で鍋に砂糖入れようとしてんのさ!?」
「えー?だったら何で入れたらいけないものを持ってきてる訳?だいたい砂糖とか塩とか、見て分かるわけないでしょ。」
「じゃあ舐めれば!?」
「やだ面倒くさい。」
「−−−−!!」
「あ、お帰りーヒナタ。」
横で何ともいえない顔をしているルックを無視して、ヒナタ達に気付いたヒオウがニコニコと手を振った。
「ただいまー。ほらお肉ー。」
2人は獣を置いた。
ルックが冷ややかに言った。
「ちょっと、その処理まで僕らにやらすつもり?ていうかもういい加減僕は疲れたんだけど?」
「えー。僕がやってもいいけど何かブツブツ呟きながら剥ぐよ?」
想像すると怖い。
「いいよ。刃物関係なら僕出来るし。」
ヒオウがニッコリと言った。
確かに先程野菜を切るときもそれはヒオウが担当した。
普通に切ろうとしたルックに、まどろっこしいからと野菜を空に投げた。次の瞬間にはそれらは見事に切られて板の上に揃っており、ルックが唖然とする中、女子2人からは大歓声がおきたものだった。
受け取った獣も見事に毛皮などを剥がされ次々と肉の塊へと変化していく。
ヒナタはおおーと拍手した。
そうこうしながら日が暮れる頃には夕飯も出来、皆で囲みながら食べた。
「美味しかったねー。」
ナナミとアイリは食後のお茶を飲みながら、熾した火の向こう側に座ってまたおしゃべりに夢中になっている。
クライブはスッと離れて座りに行ったが多分見張りのつもりだろう。
淹れたお茶をヒオウとルックに渡しながらヒナタが言った。
「クライブって、カッコいいよな?」
「・・・な、何言い出すのさ・・・。」
ルックはちらりとヒオウを見ながら言った。
ヒオウはニコリとしたままだがヒナタの言葉を聞いた瞬間ピクリとしたのをルックは見逃さなかった。
「んー?だってさー、一見黒頭巾だけど、黙ってクールに銃ぶっぱなして敵を殺るのは見ててかっこいいと思わない?こっちが危ない時には黙ってサッと敵を倒してから、寡黙に”・・・大丈夫か・・・?”とかってボソッと呟くとかってどうよ。んであれ、よくみるとかなり男前だよ?考えたら一見ゴミ袋みたいな黒頭巾を着こなしているってのも凄いことなのかも。ちょっと興味わくよなー。」
そう言ってからクライブの分のお茶を淹れ、それを向こうに座っているクライブに持っていった。
ルックがボソッと呟いた。
「・・・年上好き・・・?」
「・・・僕も成人した年上だけど?」
「あー・・・。でもあんたは一見僕らと同世代だし・・・(中身も一見同世代のノリだしね)。」
「・・・コレ(紋章)が生贄を欲しがってるような気がする・・・。金髪の・・・そう、生贄らしく黒装束の・・・。」
ヒオウの周りがなんだか黒い。
ルックは思った。
・・・魔王降臨・・・!?
「ちょ、こんなとこでやめてよねっていうか生贄って何!?だいたい興味あるって言ってる人間いきなり飲み込んで、ヒナタが承知する訳ないだろ!?ましてや108星なんだからね。後先考えなよ!?間違いなくヒナタの機嫌損ねるような事わざわざする必要ないだろ。」
「・・・ちっ。」
舌打ちですか。
でもとりあえず必死になって言ったかいがあったようである。
黒いものが出ていた手が下ろされ、ルックはホッとした。
・・・まったく、いちいち子供の、カッコいいお兄さん的な存在への幼い憧れにまで反応しないで欲しい。
どこまで過保護なんだか・・・。
はあ、とルックはため息をついた。横でヒオウはふて腐れている。あちらではヒナタの笑い声がしていた。
翌日もいい天気だった。
一向はそこに留まった跡を綺麗になくしてから出発した。
歩いているとさまざまな獣や化物が襲ってきたが、数が多くても大抵雑魚である。ヒナタとヒオウの協力攻撃で一掃していた。
「ていうかさー、これってあんまし協力っぽくなくない?なんかバラバラに攻撃してるし、僕のほうがいつも1回ずつ多く攻撃してるような気がすんだよな。僕がバコバコッて殴ってる間ヒオウ1回攻撃してるだけじゃない?」
「えー?気のせいじゃない?ほら、得物も違うし。それに協力は協力だよ。現に敵が一度に現れても一掃されてるじゃない。」
不満げなヒナタに、ヒオウはニッコリとかえしていた。
そっかなーとブツブツ呟いているヒナタ。
そうしてる内に他の皆は先に歩いている。
ヒナタとヒオウがまだ後ろにいる事に気付いたルックが振り返った時、呟いていて気付いていないヒナタ目掛けて、小さいが素早く獰猛そうな化物がスッと襲いかかろうとしているところだった。
あれは気配も消すのが上手く面倒な敵だった。
あまりの速さにルックも風魔法を唱えれず、あっと思った時、それこそ目にも留まらない速さでヒオウが動いた。
気付けば化物は棍の一撃で倒されていた。
いくら小さな体といえどもあの化物は確か普通一撃では倒せない奴だったはず。
ルックが唖然と見ていると、何かに気付いたヒナタが”ん?”とヒオウを見た。
「あれ?どうしたのヒオウ。なんかいた?」
「ん?まあね。なんか虫?気にしなくていいよ、行こう。」
ヒオウはニッコリと言った。
「そう?」
何かを倒したであろうとは思ったが、ヒナタはそのままニコリとして歩き出した。
ヒオウは倒した敵を見下ろすと、最後の足掻きのようにピクリとしているところだった。
それを足で捻りつぶすとニヤリと冷酷な笑みを浮かべた後、ヒオウは後に続いた。
お前ら如き虫けらにヒナタを渡す訳がないだろう?そう心の中で呟きながら。
一部始終を見ていたルックはぞくりと背中が寒くなった。
・・・”こっちが危ない時には黙ってサッと敵を倒してから、寡黙に”・・・大丈夫か・・・?”とかってボソッと呟く”・・・ヒオウが言っていたクライブの対処とは似て非なるもの・・・いや、まったく全然異なる。
ある意味男前だろうが、見ていたこっちは、恐怖すら覚える。
「?ルック?どうしたんだよ?行くよー?」
追いついたヒナタが声を掛けてきた。
ヒオウはルックを黙ってみて、ニコリと笑いかけそのままヒナタに続いて行った。
ルックは青い顔のまま同じく黙って後衛で固まったままであった。
作品名:ヒオウ・ヒナタ~~溺愛魔王と俺様~~ 作家名:かなみ