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ヒオウ・ヒナタ~~溺愛魔王と俺様~~

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帰趨



ヒナタがまた倒れた。


最初の頃は疲労からきているのであろうと思われていた。
事実戦いの後に倒れる事が多く、ホウアンの見立ても他に悪いところが見られない為に疲労と心労からであろうとの事であった。


だが。


「ねえルック。」

あまり大勢に大将が倒れたという事は知られないほうが良いであろうとの考えもあり、ルックに瞬間移動で自室に運ばせた後、ヒオウが青い顔でベッドに横たわるヒナタを見ながら呟くように言った。

「・・・何。」
「お前は分かってるんだろう?これの原因。」
「・・・まあね。」
「・・・やはり不完全なのが・・・」

ヒナタを見つめたままヒオウが呟く。
ルックは暫く黙っていたが、ため息をついた後言った。

「・・・本来は盾と剣が1つになって、始まりの紋章だからね。これは全ての紋章の始まりでもある。要は計り知れない膨大な力を秘めていると思われる。こいつの持つ紋章は不完全といえどもそういう大きな力をもつものだって事だよ。だが完全ではないこれはまともに力を維持出来ない分を・・・ヒナタから吸い取ることで維持している。」
「・・・力を使えばその分をヒナタの命を削ることで補っているって事だな・・・。」

ヒオウも薄々分かってはいた。

戦場に自分は直接参加することはないので近くで見てきた訳ではないが、そう、ぼんやりと感じ取れた。
ヒナタが紋章を使い誰かを癒し、そして自分の命を薄めている様を。

ギリッと唇を噛む。

だがどうする事も出来ない。
勿論極力命が削られる事がないよう、ヒナタに紋章を使用する事を禁止するという手もある。

だがそう言ったところでこの子は決してそれを守らないだろう。
普段バカな事をしているようでもヒナタはこの戦争を率いる盟主なのである。
決して形だけではないのは周りのこの子に対する慕い様でも分かる。

それにもし自分がヒナタの立場だったとしても、きっと同じ事をするであろうと分かっていた。

多分ヒナタ自身も自分の体のことだ、何となくは分かっているのであろうと思われる。

「くそ・・・。」

ソウルイーターよ。
お前が生と死を司る紋章だというなら。
奪うばかりではないと証明してみせろ。
せめてこの戦いの終焉まで。
この小さな命を存えさせるくらいやってみせろ・・・。

ヒオウは紋章のある手をもう片方でギュッと握り締めた。

その様子をルックは黙って見つめていた。


ドクンッ


「・・・ル・・・ター・・・?・・・。」

ヒナタが薄っすらと目を開ける。
何か夢でも見ていたのだろうか、声が聞こえたような気がしたが、まだ死人のように青い顔のままだった。

「やあ、目が覚めたんだ?でももう暫くこのまま休んでたほうがいいよ?」

深刻な表情を一転させてニッコリとヒオウがいい、布団をポンポンと軽く叩いた。
ヒナタは、ん、と小さく呟きまた目を瞑った。

「・・・僕はそろそろ戻るよ。あんたは?」
「ん?僕はせめてヒナタの顔色がマシになるまでここにいるよ。」

何か考えた後、ルックが聞く。
ヒオウは答えながら椅子を持ってきてベッドの脇に置いた。

「・・・そう。じゃあ、側にいてあげなよ。」

そう言うとルックはスッと消えた。

ヒオウは椅子に座り、ヒナタを見つめた。
どうやらまた気を失うか眠るかしたみたいで意識はないようである。

「・・・渡さないよ・・・盾にも・・・剣にも・・・ね・・・。」

ぼそっと呟くと、そっとヒナタの髪を撫でた。


・・・誰かが僕を見守ってくれている・・・。

混沌とした意識の中ヒナタは思った。

今回は少し力を使いすぎた。
まずいかもしれない・・・そう思った時にはもう意識を保つ事が出来なかった。

この力を手に入れた頃はたまに疲れる程度だったのに・・・もう残された時間はそう無いのかも知れない。

でも、だめだ。

僕は逝く訳にはいかない。
今僕を信じついてきてくれている皆の為にも、このバカバカしい戦いを終わらせたい。
僕自身の為にも、ジョウイを止めたい。
そして・・・共にと、あの時言ってくれたヒオウとの約束を・・・ヒオウの為にも、ここで死んでしまう訳には、いかない。

そう、それの帰趨が何を意味するか・・・分かっていても・・・。


だから・・・だからさ、ねえ、輝く盾の紋章?お願いだから僕の命を取り切ってしまわないでよ・・・。
お前を使わないようすればかなり楽なんだろうけどさあ。
でもそういう訳にもいかないんだ・・・。
お前は必要なんだ・・・。
だからせめて、今より少しだけでいいから吸い取る勢いを緩めてくれないかなあ。

そうしてくれたら・・・いつか・・・、いつか・・・きっと・・・


ドクンッ


な、何・・・?

水面下にあるヒナタの意識がそれに呼び覚まされる。
何・・・?
ああ・・・なんだか・・・少し・・・楽、だな・・・。
これは・・・

「・・・ル・・・ター・・・?・・・。」

ソウルイーター・・・?

僕に、生気を・・・くれた・・・よね?

・・・ほら・・・ヒオウが何か・・・言ってる・・・側に、いるって事だ、ね?
うん・・・そうだね、もう少し、休む、かな・・・。

ヒナタはまた意識をスッと沈ませた。

だが先程と違って随分と穏やかな気分だった。


そういえば・・・昔読んだお話の中で、どこかの外国の昔話で・・・ある男に名付け親になった死神が、不思議な力を授けていたっけ・・・。
病で倒れている人の側にいる死神が見える力・・・。
枕元に死神がいればその人は生き返る事が出来て、足元にいれば助からない、だったかな?
死神なのにみんな殺しちゃう訳じゃないんだ、生き返らせる事も出来るんだって・・・読みながら思ったっけ・・・。


・・・誰かが僕を見守ってくれている・・・。
・・・誰かが・・・ああ・・・そうだった・・・死神だ。

死神が・・・ヒオウが・・・僕を・・・


「・・・ヒ・・・オウ・・・?」
「・・・起きた・・・?どう?気分は?・・・顔色は・・・うん、随分マシになったね?」

ゆっくり目を開けると、気付いたヒオウがヒナタを覗き込んで囁いた。

「うん・・・、だいぶ、楽、だよ・・・。」
「良かった。あ、お水、飲む?」
「ん・・・。」

ヒオウは椅子から立ち上がって水差しからコップに水を淹れる。

「・・・ありがとう・・・」
「え?何か言った?」
「・・・ううん、何でもないんだ・・・。」

ヒナタはそっと微笑みながら答えた。