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ヒオウ・ヒナタ~~溺愛魔王と俺様~~

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壟断



ティントから戻る途中で仲間になったゲオルグ・プライムという男はなかなかの経歴の持ち主ということだった。

「凄いよな。色んなとこで中枢的な位置にいたんだよ?二太刀いらずの呼び名も伊達じゃないしさあ。」

ヒナタが感心したように言った。
シーナが興味なさそうに言う。

「つってももうおっさんだろ?あーそういや女王国にいたんだってな。俺行ってみたいわそこ。女王ってからには女の子多そうじゃね?」
「シーナは何かにつけて行き着くところはそこだね。それ以外に考えることはない訳?」

棍でトントンとリズムをとりながらヒオウがニコリと言った。

「ていうかあんたらここを井戸端会議の場か何かだと思ってる訳!?どっか別のとこで話しなよ?なんでここなのさ。」

いつものようにルックが鬱陶しげに言う。
こことは例の如くホールの正面突き当たりど真ん中、別名石板前。

「いーじゃん別に。ルッ君そんなことにいちいち目くじらたててたらシュウみたく禿げるぞ?」
「ていうかシュウは禿げてないだろ?」
「あー、でもいつか禿げるかもね?ヒナタのせいで。」
「・・・あーもう・・・どうでもいい・・・いや、ルッ君ていうな・・・。」

ヒナタ、シーナ、ヒオウの順に言った会話に脱力し、ルックは少々投げやりぎみである。

「ルック、疲れてる?まあ、いいや。そんでゲオルグだけどさー、なんかあんななのに甘い物好きらしい。この間も歩きチーズケーキしてた。」
「なんだよヒナタ、歩きチーズケーキってのは。」
「ああ、あれじゃない?歩きタバコ的な感じ?」

シーナの疑問にヒオウが答えた。

そして想像してみた。

渋いおっさんがタバコをくわえながら歩く、ではなくチーズケーキを頬張りながら歩いているところを。
トラン出身の2人は複雑な顔をした。
少し遠い目になる。

「・・・なんか色々と間違ってねえ・・・?」
「・・・ゲオルグ・・・赤月では六将軍の一人だった大物なのに・・・父と並んで・・・。」

そんな2人を無視してヒナタがグッと手を握り締めて言った。

「という事で僕はチーズケーキを極めようと思う。」
「「「は?」」」

3人が唖然とする中、ヒナタがニコッとして続けた。

「だっていいじゃんあの人。仲間になってもらったし、お礼と媚を兼ねて最高のチーズケーキを・・・」
「え?ちょっと待ってヒナタ、何それ?お礼はまだしも媚って何。ていうか仲間になってもらったお礼ってのも・・・」

すかさずヒオウが突っ込む。
横でシーナが、仲間なら今までも山のようになってもらってね?つかその度にお礼してっとこ見たことなくね?と呟いている。
ルックは黙ってため息をついた。

「美味しいチーズケーキで釣って仲を深めんだよ。って事で僕は厨房にこもるから後はよろしくねーっ。」

爽やかに手を振って逃げるように去っていった。
後はよろしく?
振り返れば向こうから苦虫を噛み潰したような顔の軍師がやってきていた。

「あー、そういうこと。」

シーナが納得したように言った。

「何今の?え?ていうかこの間は黒マントが云々とか言ってなかった?今度はさらにおっさん?歩きチーズケーキなのに?」

呆然としたような様子でヒオウがぶつぶつと言っている。このまま放置すると今度こそ108星を減らされかねない。
ルックはホントに禿げそうだとふと思いつつ言った。

「いや、憧れの対象の意味は明確でしょ?あんたも言うようにおっさんなんだからさ。」
「そりゃそうだよなー。」

シーナも手を後頭部で組んで呆れたように同意する。
その時シュウがやってきた。

「先程までヒナタ殿がここにいたな。どこに行った?いい加減溜まった書類を処理してもらわないとどうにもならん。」
「あーうん。」

シーナがどう答えようかと逡巡しているとブツブツ言っていた英雄がニッコリと言った。

「レストランの厨房にチーズケーキ作りに行ったよ?ゲオルグに渡すんだって言ってね。」

売ったー。

この英雄、邪魔したいが為に普段は過保護なほどに構っているヒナタを簡単に売りやがった・・・。
ルックとシーナはアングリと口を開けて目の前のニコニコしている英雄を見た。

「ああ、そうか。なら仕方ないな。今回だけは見逃すか。」

意に反してシュウはサラッと言って去ろうとした。

え、何で?

3人とも、いつもなら執拗に追いかけて仕事をさせようとするこの苦労人を不思議そうに見た。
胃痛でとうとうおかしくなったか?
その視線に気付いたシュウがジロリと睨むようにして言った。

「何か失礼な事を考えられているような気がするが?ゲオルグ殿に渡すものを作ってるんだろう?彼が仲間になった後でヒナタ殿が嬉しそうに言っていたからな。いた事はないけれどもまるで父親のようだと。」

ああ、やっぱり、とルックとシーナは思った。
特に普通に父親が健在なシーナはしんみりとなった。

「えー何で。そんなら僕がいくらでもなってあげるのに、父親がわり?」

もはやどう突っ込んでいいのか分からない。

年齢的にも見た目にも無理だろう、か?
ここはいい話で終わらせろよ、か?
お前はヒナタの慕う相手はたとえ父親のようだという理由ですら許せないのか、か?
最後は何で疑問系なんだ、か?
それとも・・・いや、きりが無い。

ここは無視だろう、との結論が皆のみせた態度から判断できる。

シュウは、書類が・・・と少し目を泳がせぎみに去って行った。
シーナがそろそろナンパしてこようっかなーととってつけたように言いながら、ルックに後は任せたといわんばかりに手を振って外の方へ向かっていった。

なんでここなんだ・・・ルックはあらためて自分達がいる場所を思い返した。
石板前。
去るに去れない。

「・・・えーと、あ、僕花に水やらないと・・・」
「いやいや花育ててないでショ。どこ行く気?」

笑顔でぐっと肩をつかまれ行く手を阻まれた。

「ほらほら、そんな痛い人を見るように僕を見ない。何か色々言いたい事ありそうだね、まあ言わせないけど?じゃあ、ほら、行こう?」
「・・・一応聞くけど・・・どこに・・・?」
「そうだね。チーズケーキの元凶を潰しに行くのと、チーズケーキを潰しにいくのどっちが・・・」
「チーズケーキでっ。」

即答。

心なしかヒオウが面白くなさそうだったが、知らない。

それじゃあと、否応無しに連れ去られるルック。

気付けばレストランの厨房だった。
味見してあげるといいながら次々食べられていくせいで(物はおもにルックの腹の中に収めさせられた)、せっかく出来上がっても持っていける状態ではない。
邪魔するな、食うなーっと叫んでいる声が暫く響き続けた。
腹を立てながらも、ヒオウから腕前を褒められて喜んでしまう単純な盟主。
それを可愛らしいとニッコリお茶を飲みながらチーズケーキを食べる英雄。

哀れなのは暫くチーズという言葉すら聞きたくないと口と胃を押さえながら青くなっている風使いだった。