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ヒオウ・ヒナタ~~溺愛魔王と俺様~~

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芳醇3



次に目が覚めた時、一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。

「・・・目、覚めた・・・?」
「え・・・?」

なんだか軽いめまいがする。焦点がなかなか定まらなかった。

「どう、気分は・・・?」
「あ・・・ぅ・・・」

僕は何をしていたんだっけ?今どういう状況だっけ・・?この人は誰だっけ・・・?
ぐるぐると頭の中がうごめいている感じだ・・・。

その時、左手がチリっと痛んだ。

「っつ!?」
「・・・?」

その鋭い痛みにヒナタはいっぺんに霧が晴れたようになった。

そうだ・・・僕は・・・こいつは・・・

どうしよう。
何も気づかないふりをして油断を誘い・・・とここまで考えたとき、ふと自分の手足が重い事に気づいた。

ヒナタの視線に気づいたのか、少年が言った。

「手足はね、ながい鎖でベッドにつながせてもらってるよ・・・我は油断する事が嫌いだからね・・・大丈夫、長いから少しの移動は可能だから・・・ちゃんとバスルームには行けるよ・・・」

・・・最悪。

「・・・そんな事よりも・・・あなたは効きにくい体質なんだろうか・・・?どうやらまだ我のいいなりって訳ではなさそうだ・・・」

冗談じゃない。だがヒナタは黙っていた。

「かといってまったく効いていないという訳でもないのか・・・?・・・まあ、いい・・・。効かないなら、効くまでするだけ・・・」

まさかまた!?

そうヒナタが思っているうちに体を抱き寄せられ首元に少年の唇が近づいた。
抗おうにも意識ははっきりしたものの体の力がまったく入らない為、されるがままであった。

「んう・・・」

またしびれるようなそして体中がとろけるような感覚。
自分がほんとうにどうにかなってしまいそうだ・・・そう思いつつ、ヒナタはまた意識を手放しそうになった。

その時また手がチリっと痛む。

「!?」

少年が途中であろう行為をやめ、さっとヒナタから離れる。
ヒナタはぼんやりした意識をなんとか集中させつつ、痛む自分の手を見た。

「紋章が・・・」

始まりの紋章が、ヒナタが何も言っていないにもかかわらず光っていた。

「っく・・・」

少年を見ると忌々しそうに顔をそむけ手でさえぎっている。

・・・そうか・・・この光に弱いんだな・・・?
そういえばこの屋敷自体薄暗い。
少年自身も外にいるときはずっとマントを深く被っていた。

「そ・・・それは・・・?」
「・・・あんたはどうやら紋章の事はあまり知らないみたいだね?残念ながら僕は紋章の継承者なんだよ。だから永遠の命にはまったくもって興味ないって訳。どうする?この光、苦手みたいだけど?こんな光とともにいるのは嫌なんじゃないのー?」
「・・・だったら・・・」

少年の目が鋭く光った。
嫌な気がしてヒナタはどうにか体を起こし構えようとするが、どうにもまだ体が言う事をきかない。

「・・・くそ・・・。だったら、何?」

時間でも稼げないかとヒナタは少年に問うた。
少年は鋭い目のままニコリと笑う。
それはまた美しい様子で。

「・・・だったら・・・その腕を切り取るまでの事・・・」
「なっ!?あんた、綺麗な顔してなんて物騒な事言うんだよ!!」
「物騒?我にとってはその光の方が物騒・・・」

そう言うとこちらに飛ぶように移動しようとした。
まずい!!
かなりまずい状態じゃないか、どうする!?僕!?

ヒナタは相変わらず言う事をきかない体を懸命に動かしつつ、なんとか左手をかざそうと腕を上にあげようとしていた。

「ヴィンス・ヴァン・カルツ!!」

その時どことなくそう怒鳴るような声が聞こえた。
その瞬間、少年の体は硬直したかのようにその場にぴたりと止まった。

「な・・・なんだよ・・・?」

ヒナタはけげんな声でそうつぶやくと声のした方を見る。

・・・この声・・・。

少年も体を硬直させたまま鋭い目だけをそちらに向けた。
あきらかに動揺した顔をしている。

「・・・久しいのお、ヒナタ。無事であったか?」

はたしてそこには懐かしい少女が立っていた。

「シエラ様!!」

昔のまますこし青白い顔色をした美しい少女がニッコリとヒナタを見ていた。

「・・・長、老・・・?」

硬直したまま、少年は目だけをシエラにむけたまま呟いた。

「そうじゃ。わらわはこの世界での始祖。おんし、こんなところで何をしておる?」
「・・・。それより・・・呪縛をといていただけたら・・・」
「そうじゃのお・・・とりあえずヒナタになにもせんと言うのであればな。それにといた後でも何かしようものならいつでもおんしはわらわに縛られるという事を忘れるでないぞ?いいかえ?」
「・・・はい・・・」

シエラはニッコリと笑うと片手をあげ、少年に向かってすっと振り下ろすようなしぐさをした。
すると少年は急につかまれていたのを手放されたようにガクッと膝をおり、その場にへたりこんでしまった。

「えっと、いったいどういう事?」

ヒナタは訳が分からずシエラに向かって聞いた。

「こやつは吸血鬼。わらわにとっては我が子でもあり、従属でもある。特に、こういった若い吸血鬼であればの、わらわが名前を呼べば動くことすらままならんわ。」

ああ、では先ほど叫んでいたのはこの少年のフルネームであったか。
名前がそういった意味をも、持つとは。
だからこの少年は僕にすら名前を名乗らなかったのか?
油断は嫌いだと言っていたし・・・。

「・・・なぜここに・・・?しかも我の名前、なぜ・・・」
「わらわが我が子同然のおんしらの名前すら知らぬとでも?それになぜここにとは、わらわがおんしに聞きたいわ。わらわはヒナタの気配を悟っただけ・・・その紋章がな、わらわに知らしてきおったわ。」
「ええーそうなんだー。ほんと助かったよシエラ様ーありがとう。」

ヒナタはにっこり笑って言った。

「相変わらず素直な奴よのう。今もまだあやつと一緒にいるのかえ?」
「あやつ?んーと、ヒオウの事?うん、一緒だよー。」
「そうか。まあ、おんしさえ幸せにやっているのであればわらわとてどうこうは言わんがの。あやつと一緒でものぉ。」
「もうー相変わらずだねー。ヒオウはとてもよくしてくれてるよ。大丈夫。」
「・・・そうか、なら、よい。」

しばらくじっとヒナタを見ていたシエラは嬉しそうに微笑んでそう言った。

「それにしても、始まりの紋章て便利だね、そんな風に誰かに教える機能もあるの?って、じゃあやばい、ヒオウにもばれてるかなっ。」
「いや・・・今回の件は吸血鬼がらみ。その紋章はわらわに知らせるのが一番とでも判断したのではないかぇ。もしあやつにまで知らしておったらの、すでにあやつはこの場にいるであろうよ。」

シエラ様、ヒオウの事文句ばかり言ってるわりによく分かってるんだから・・・ヒナタはそっと苦笑した。

でもまぁ、確かにそうであろう。
昔のモノ扱いしていた頃のヒオウですら飛んできたに違いない。ましてや今だと・・・。
そっとヒナタは心の中でヒオウに詫びた。
勝手な事して、ごめんなさい。