二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【BL】ある雪の日のこと――十二月、ウィーンにて

INDEX|1ページ/1ページ|

 
その日のウィーンはぱらぱらと雪が降っていた。俺がいたドイツより更に高地なので寒くてたまらない。
「ギルベルト、もう少しゆっくり歩いてくれませんか」
 そう言ったローデリヒの顔は赤味を帯びていて、目は潤んでいた。ローデリヒが風邪をこじらせてしまい、医者に診てもらうために先ほど俺らは病院に行っていた。
 歩いていける距離だったので歩いていったけれど、今のローデリヒはかなりしんどそうだ。
 信じられないことにこいつ、数日前は結構辛そうなのにもかかわらず大丈夫だと言い張って市販薬で乗り切ろうとしていた。
 今朝、限界が来たらしくて病院にいったほうがいいと判断した時も『一人で行く』、と言い張っていた。
 それが今は一人で歩けるような状況ではない。ウィーンの街中で倒れたらどうするんだよ、全く。
「ほら、肩貸すから。寄りかかれって言ってるだろ?」
「いいです」
 ローデリヒはきっぱりと言った。倒れたらどうするっていうんだ。
「熱、何度あったんだよ?」
「三十七度五分でしたけど」
「熱いな」
 直接額をくっつけたところ、雪が降っているにもかかわらず淹れたてのコーヒーのようにローデリヒは熱かった。
「何をするんです」
「肩貸せ、な? それともなんだ、手繋ぐか」
「あらぬ誤解を受けますからやめてください、全く」
 再びローデリヒはきっぱりと言った。更に顔が赤くなっている。
「あらぬ、を訂正するべきだな」
 俺たちが通常の同性同士の友情の境界を越えているのは事実だ。他人に普通の男同士の友人の関係ではない、と思われてもそれは事実で否定しようがない。
 口ではいくらでも否定はできる。実際そうやって否定してきたことだってある。
「そういう問題では」
「それ以前にお前がぶっ倒れて救急車呼ばなきゃならないほうが迷惑だ。ほら!」
 ローデリヒの左手を思い切りつかんだ。ああもう他人に何言われようが、どう思われようが気にしねぇ。
「離してください」
「ローデリヒ、どうした。お前、今日なんか変だぞ」
「やはり、最初の人類はアダムとイブだったのだなと最近思うのです」
「やっぱりローデリヒ……お前変だぞ? 突然哲学にでもはまったのか」
「男性と女性の間でしか子孫は残せませんから、やはり」
「だったら俺と別れればいいだろ。多分、お前ならいいとこのお嬢さんが手に入ると思うぜ。俺なんかと付き合っているより、幸せになれる」
 やっぱり継承関係でいざこざでも起こしていたのか。ああ、でもなんかこんなことを言っていて悲しくなってきた。
「そんなことを言わないでください。なぜこんなに、こんなにも……ギルベルト、あなたを失ったら、平気ではとてもいられないくらい思っているのに、その行き着く先が、何故、いけないというのですか。それに対して情のない政略結婚が許されるのは、何故なのです! ギルベルト、答えてください」
「ああ、不条理だよ! ウィーンは、そんな不条理を変える力がある街だろ? ローデリヒ、俺よりお前が知っているはずだ」
 オーストリアの首都、ウィーン。ここには世界各地から音楽家たちが集まる。そして数多くの著名な音楽家を生み出し、育てた街。
 数々の事件が起こり、音楽以外でも様々な芸術が発展した。
 芸術の世界は既成観念に囚われていることは逆に致命となる。それゆえ、時には不条理な道徳を壊す必要が出てくる。多少の逸脱とか倒錯と呼ばれているものも、彼らにとっては何ということもなくなる。
 だから、別に俺たちがどうってことないことはローデリヒ、お前が一番知っているだろう?
「そうですね。取り乱してしまってすみません。ウィーンは、素晴らしい街です」
「それはそうと、体調の方は大丈夫か?」
「薬が飲みたいです」
「なんか食った後じゃないとダメだな。水もいる」
 ぱらぱらと降る雪。地面は白く染まっている。ぱっと見て食べ物が売っていそうなところはなさそうだ。
「あそこにカフェがあります」
 ローデリヒが指差したところにちょうどカフェがあった。
「よし、入るか」

 昼食は既に食べてしまったのでケーキ類を注文した。ローデリヒはアップルパイとバニラアイスの乗ったやつ、俺は木苺のタルトとコーヒーを注文した。
「うまいか?」
 ローデリヒは空腹だったのかアップルパイを美味しそうに頬張っていた。
「ええ。嬉しかったです」
「ええと……俺のおごりなのが?」
「さっき、手をかしてくれたことが」
「なんだよ。散々嫌がってたくせに……まあいいけど」
 本人も結構葛藤があったみたいだし、今は心理的には元気なようだしいいとしよう。

 タルトを食べ終えてコーヒーを飲んでいたらローデリヒも食べ終えたので薬を出してやった。
「こら、勝手に」
「口あけろ」
 ローデリヒはぽかんとしながら口をあける。手のひらにのせた錠剤を反対の手でつまんで舌の上にのせてやった。
「ほら、水」
 少しずつ水を流し込んでやる。幸い、俺たちは奥のほうの席なので目立つことはないと思う。
 まあ目に入ってもウィーンでは男同士でこういうことをしていていてもどうということはない。
「あなたという人は」
 ローデリヒはまたむすっとして赤くなっていたけど、俺には少し嬉しそうにも見えた。
「寝てろ。早く風邪治せ。でないと俺が欲求不満で死ぬから」
 欲求不満というのはそういう意味だけでなく純粋な話し相手としてもローデリヒはいい相手なので、一人も楽しいがそればかりだと辛い。
 だから早く治って欲しいのだ。
「こ、こら!」
 喉仏にキスしてやった。くそ、冬なのに暖かすぎるぜ。