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寒い春と肉まんと

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もうとっくに春はきたのに、俺の体温はずっと下がったままのような気がする。今までこんなに寒いと感じたことはなかった。誰といても、何をしていても。

「不動」

ただ、この男が俺の手を握るまでは。
あの埠頭にこいつが来たとき俺はただバカなやつだとしか思わなかった。こいつの連れだって嫌な顔を隠そうとしていなかったのを覚えている。
でもいつだったか、何かの拍子にこいつが俺の手を握った。多分ほんの些細なことだったはずだ。だが俺はその手が驚くくらいに温かく感じて、自分からはそれを手放せなかった。

「不動?」

なあ源田、何でてめえの手はそんなにあったけえんだよ。俺は寒くて寒くて凍えて死にそうなのによ。俺はもう指が動かねえ。
部活からの帰り道。大分日が長くなってきて辺りはまだ明るい。
着替えも終わって帰るとき、なぜ源田はさも当たり前の様に帰ろうと言って俺の横についてくるのだろう。そしてはっきりした返事など返さないと知っているのに、飽きずに話かけるのだろう。

「なあ不動少し腹が減ったな、コンビニに寄らないか?何かおごってやる」

なんでそんなに俺といて楽しそうなんだよ、バカじゃねえの?
ああ寒い、寒い、寒くて腕が動かない。
先に行きすぎた源田が少し歩みを緩めて隣に並んだ。それからはしばらく源田は何も言わなかったが、そのアホみたいな笑顔は変わらなかった。ニヤニヤニヤニヤして歩いている。たまにこっちをちらっと見て視線が合うと歯まで見せて笑う。何だよ。

「何で笑ってんだよ」
「え?」
「さっきからニヤニヤしてんじゃねえよ」

俺のきつい一言に源田はついに笑うのをやめてきょとんとした。ざまあみろ。

「何でって…不動といて楽しいから」
「はあ?」
「お前は楽しくないか?」

そう言って源田はまた笑った。
意味わかんねえ。お前といて楽しい?んな訳あるかよ。お前が勝手におもしろがってるだけのくせに。そう心の中でははっきり思ったのに、なぜか源田の顔を見ているとそれを口に出す気にはなれなかった。
ますます寒くなってきた。ついにもう足まで動かない。
そしてふと立ち止まった俺を源田は不思議そうに見つめた。

「不動、どうした?」
「源田ぁ」
「ん?」
「さむい」

なぜか無性にあの時の温もりが恋しくなった。そう、寒いだけだ。温もりがほしいだけ、源田がほしいわけじゃない。

「そうか?もう全然暖かいと」
「さみいんだよ、もうずっとずっと」
「不動…?」
「さむくて、死にそうだ」

声が擦れている。ダサすぎだろ。ただ寒いだけでこんなに泣きそうだなんて。
その俺の言葉を聞いた源田はそれから何も言わずに俺を抱き締めた。あ、温けえ。
じわじわと暖まる気がする。動かなくなっていた足も腕も指もしっかり動く。俺はもっと暖かくなりたいと源田の身体に腕を回した。でもこれを離したらまた寒くなるのか、それは嫌だ。
しかしあっけなくそのときは来た。源田は何もないように身体を離してまた笑った。

「寒いなら肉まんにしよう!きっとまだあるはずだ!」

その一言に呆れてしまった。こいつ本当にアホなのか。何となくイラついて俺は源田の足を蹴った。源田は何もわかっていない顔でひたすら痛がる。

「バカだろ、お前」
「痛っ、何だ不動?」
「うっせえよ!いいから行くぞ」
「あ、ああ」

さっさと歩きだそうと思い手をポケットに突っ込もうとして、止めた。これじゃまた寒いままだ。俺は何も言わずに源田の手を握って歩きだした。源田は戸惑いながらついてくる。そうだ、肉まんじゃなくてピザマンにしよう。どうせ源田のおごりだから。
作品名:寒い春と肉まんと 作家名:にぶ