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オンリー新刊サンプルというかボツねた【ゆりゆり2】

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「さぁ、準備は整った。これで思う存分キミを愛する事が出来る。傷付けて、痛めつけて、苦しめて。この手で抱えきれない程の愛を、キミに与えてあげる」
 台詞と共に腕を広げ、ヨハンは傲然と覇王を見下ろした。黒のぴったりした衣服に青のエナメルで出来たプロテクタを身に纏い、むき出しの腕と太股にはベルトが巻かれている。
「違う! そんなものは愛じゃない!」
 覇王は金色の瞳で睨み返す。黒の鎧を身に付けて、翻るマントの裏地は血の色。拳を握って叫んだのを、ヨハンは鼻で笑う。
「どうしてそんな事を言うの。傷付けるのが愛なんだって、教えてくれたのはキミだろう。キミが……」
 言葉が途切れると、しばらく視線が彷徨った。
「……キミが、ボクを傷付けるのは愛してるから。そうなんでしょ」
「いいや、お前の言う事は間違っている」
 対する覇王は表情を全く変えないが、それも想定の内だ。ブーツの音を鳴らして歩み寄ると、空を向いて独り言を放つ。
「じゃあどうして、ボクの事を放っておいたの。一人は辛かった。寂しかった。辛くて……」
「…………」
「……えーっと……」
 言葉を詰まらせたヨハンに、覇王は無表情で指摘した。
「『苦しくて傷ついた。でも、それがキミの愛なんだって思ったから、今まで耐える事が出できた』、だ」
「あ、そっか」
 頬をかいたのを半眼で見て、腕を組んでため息をつく。同様の事を繰り返すのは、これで何度目だろう?
「いい加減この程度の台詞、覚えたらどうだ」
「だって台詞すっげー多いんだぜ」
「主役だからな」
 ソファに置いてあった台本を取り上げると適当にページをめくる。間近に迫った文化祭に向けて、クラス劇の主役に選ばれた二人は自主練習に勤しんでいた。暗記物が得意な覇王と違って、とにかく実践派のヨハンは台詞の暗記に苦心していた。
「覚えるの苦手なんだよなあ」
「だからこうして練習しているのだろう」
「そうだけどさ。すげーむずいんだぜ。台詞多いし、ややこしいし。覇王もやってみたら分かるって」
「ふむ」
 覇王は一つ頷くと、台本を床に置いた。そのままヨハンの方向へと歩きつつ、澄んだ声を部屋中に響かせる。
「狂っている? そうかもしれない。だが、この愛は本物だ。キミだけがボクの全て。ボクの世界」
 顔の上半分で笑みを作ったまま、口だけがうつろに動く。うっとりと顔を上げれば焦点を失った瞳が三日月を作り、漆黒の鎧からのびる繊手は別の生き物のように空間を薙ぐ。鬼気迫る美しさにヨハンが後ずさると、小さな首がわずかに傾げられた。
「不思議そうな顔をしているね。でも、これが本当の愛なんだって、教えてくれたのはキミなんだよ。ボクはキミから与えられた愛を同じ形で返しているだけ。だから、ボクを否定する事はキミ自身を否定する事になる。」
 普段と別人のような口調と表情。なのに違和感が全くなく、奇妙な酩酊感が日常を破壊して彼女の世界を作り上げる。全てを支配する者特有の傲慢さで、覇王は止めの言葉を放った。
「誰よりも愛してる」
 そこで表情を消し、いつもの淡々とした口調に戻る。
「と、まあこんなもんか」
「…………すげー!」
 プロの俳優顔負けの変貌と完璧な演技に、ヨハンは素直に称賛の拍手を送った。