誰かの言葉
※本編と混ざっています
思い出せないんだ
ふとした瞬間に感じる思い
今、何しているんだろうとか
俺はここに居るんだよ、とか
もう、待っていても会えない、とか
そんな事を考えるのに、大切な事を思い出せない
俺は「誰」を思っているんだろう
俺が思っている君は、誰?
眠れば、眠る程に忘れていく記憶。忘れる前に、必ず起こる事がある。それは、忘れてしまう記憶を夢で見るんだ。当たり前だけど、目が覚めたら忘れてしまう。なら、何でそれが分かるかって?…本当に、何となく分かったんだ。
そして、俺は今日も「夢」を見る
「…ここ、は、」
目を開ければ、現代よりも自然に囲まれた風景。
懐かしいと感じる草の匂い、花の香り。
草の上に腰を下ろして空を見上げれば、泣きたくなる程に綺麗な青空。
「綺麗、だなぁ…」
思わず呟いてしまった。最近、空を見ていないのだ。見ているのは無機質な天井ばかり。それでも平気で居られるのは、皆が居るからだ。今度こそ、皆と脱出してみせる。誰も欠ける事なく、全員で。その為には、皆に心配を掛けてはいけない。だから、寝ないと、
記憶が削れていっても、寝ない、と、
「こんな所に居たのか」
「…え?」
そんな事を考えていると、後ろから声を掛けられた。振り返ってみれば、俺より小さな男の子。青い瞳が印象に残りそうな男の子は、俺の横にぽすりと座ると、小さな手で自身の膝を抱えた。
「……大丈夫か?」
「えっと…何が?」
「泣いてただろ」
「泣いて、た?」
そんな記憶は、ない。なのに、俺の瞳からは意思に反して勝手に涙が零れ落ちる。何で?と思って慌てて袖で拭おうとすれば、男の子は手を伸ばして俺の涙を拭った。
子供独特の、小さく温かな手。だけど、しっかり涙を拭う手は、とても小さいとは思えない。安心、させられたのかもしれない。俺は思わず、へにゃりと微笑んだ。
「えへへ…もう、大丈夫だよ〜」
「…本当か?お前は無理をするからな」
「そんなに無理してないよ〜」
「イタリア」
俺は男の子の事を知らないのに、男の子は俺の名前を呼ぶ。少し驚いたけど、もう演技はなれてしまったから…何でもないように微笑んだ。すると、男の子はじっと青い瞳で見上げると、言う。
「……いたいところはないか?」
いたいところ?何を言っているのだろうか
そういえば、日本も同じような事を言ってたなぁ…痛い所はないかって…
ぼんやりと考えていれば、薄れる視界。夢が、覚める
:
:
「………イタリア、大丈夫か?」
目を覚ませば、ドイツが心配そうな顔で俺を見ていた。何所かで聞いた事のあるような台詞に引っ掛かりながらも、俺は大丈夫だと微笑む。
ドイツは何か言いたそうだったけど、口を閉ざすとぐしゃぐしゃと俺の頭を撫でてくる。ちょっと力が強めだったから、痛い。でも、それよりも大きな手が温かい。そういえば、あの子の手も温かかった…あの子、って、誰?
「…ドイツ」
「なんだ?」
「………ドイツの手って、安心するね」
「そうか…」
急に不安になり、俺はドイツの手をぎゅっと掴んだ。大きくて、温かくて…懐かしいと感じてしまう。可笑しいよね、懐かしいって感じるなんてさ。
本当、俺はどうかしてるよ
だって、
「イタリア君、言い方を変えましょう…貴方の居たい場所はどこですか?」
日本の言葉に、訳も分からず泣きたくなったんだ
嬉しかったのもある、けど、それよりも、
聞いた事のある懐かしさに
―ねぇ、君は、だぁれ?