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embraced?

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 調子が狂う。

 いつものスカした顔をしていない奴なんて━━━━。


 件の人物も人間だから喜怒哀楽ぐらいあるだろう。
 数年の付き合いで普通の知り合いよりは濃い人間関係を築いてたと思う。
 そして顕著にも身内以上に感情をぶつける相手に容赦はなくて。
 強靭な精神力を持っている大人。
 子供のエドが何を言おうとさらりと受け流す。
 才能を買ってくれて、後押しもしてくれる。

 女にはだらしないようだが、エドは実際にそんな場面には数回ぐらいしかお目にかかったことがない。
 そもそも軍の規律は厳しいのだから噂はあってもそれを肯定する程ではないのは知っていた。

 何事もそつなくこなすいけ好かない大人という認識だったんだ。


 今日までは。


 エドは報告書を嫌々ながらも提出しに司令部へ足を運んだ。
 また始末書やなにやらイロイロ小言が待ってるのかと思うと自然足は重くなる。
 郵送で済まさなかったのはエドたちはここのところ東部とは離れたところにいて、そこの司令部の人間どもにうんざりして。
 ここの気安い連中にふと会いたくなったのだ。

 決して上官を上官と思わない不敬罪な部下を好きにさせてる変な司令官に会いたくなったわけじゃない。
 ついでに報告書もあったし。
 逢えば喧嘩沙汰になるのは過去の例からいって避けようがないが、前ほど嫌じゃないのはその言葉や態度の片鱗に生暖かい感情があるのにエドは気が付いたから。
 こそばゆい気はしたが、親の愛情にもにた感覚は拒絶するものでもなかった。
 押し付けられるのはカンベンならないが。
 肩に触れられるような気安さだったから。
 何よりも弟を奇異な目で見られることもない。
 その安堵感は宿無しのエド達にとってかけがえのないものだった。


 しかし。

 それだけで他には何の意図もなかったはずなのに。
 今日に限って目の前の男は疲弊をあらわにしていた。
 表面上は普段どうりだった。

 ただ、その目が・・・・。
 エドを見て泳ぐようにゆれて・・・。

 それが気に入らなくて。
 つい。
 「情けねーカオ。」
 エドは無意識に零してしまった。
 心の中でつぶやいただけだったのに、優秀な脳は伝達事項だと認識して言葉にした。
 「そうかね?いつもどうりの男前だと思うが?」
 マスタング大佐は一瞬切れ長の目を見開いたが、それ以上は崩れることなく。
 「報告書かね?今は急ぎの書類があってね。すまないが、明日以降になってしまうんだ。結果は電話で伝えるから居場所を特定しておいてくれ。」

 なんで、そんなカオしてんだ。

 「君のほうこそ、なんでそんな顔をしてるんだね?」
 大佐が問う。
 またもエドの意思に反して言葉を発していたらしい。
 軽く言語障害なんじゃなかろうかと不安に思う間もなく、疑問がわく。

 君のほうこそ・・・?

 「俺が、どんな顔してるって?変なのはアンタだって。」
 眉間にしわよってるし、目が充血してるし、何より雄弁なのは俺に焔をつけたあの湧き上がるような熱さがない。
 何より、俺を見ないじゃないかと。
 エドはその感情がなんなのか分からないまま、ただ寂寥感でいっぱいだった。
 「・・・まぁいい、問答を続けても埒があかない。君も私も変だということでいいだろ う。さぁ、それを置いていきたまえ。」
 大佐は明確な意思をもってエドを遠ざけたかったらしい。

 普段なら。
 ここで嫌味の一つ。
 くだらない甘言。
 過剰なほどのスキンシップ。
 それらのコンボで俺がぶちぎれて。
 一連の儀式のようなものがあって・・・・。

 くだらない茶番に付き合う必要もなくなって万々歳なはずなのに。
 それがないだけでどうしてこんなに不安だ?
 ぐるぐるとよくまわる思考は何故かエドの求める答えを導きださなかった。

 「鋼の・・?」
 「くそっ!」
 「ほんとにどうしたんだ?」
 「どうした、は俺の台詞だつーの!」


 マホガニーの重厚な執務机をはさんで大人と子供が対峙する。


 強い意志を伴うまなざしは同等。
 だが、そこに産まれる感情が似通っているのに気が付いたのはどちらが先か。



 「・・・・・君には負けるよ、鋼の。」
 「・・・ったりめーだ。」
 ギシリと不愉快な音を奏でて無骨な椅子が軸を支点に回転する。
 時間の流れが緩やかになった錯覚を覚えるほど、ゆっくりエドに近づいていく。

 「頼みがある。君を抱きしめさせてくれないか?」
 「理由を話せばな。」
 「抱きしめさせてくれたら話すよ。」
 「この・・・誑しが。」

 どちらともなく腕が伸ばされる。

 触れるのは。
 リーチの差で、エドが抱き込まれるのが先だった。


 ほんと調子が狂う。
 こんないけ好かない奴に同情して。
 あまつさえ、今こんなことをしているなんて。



 「今日・・・・また・・・私の流した血の元が判明してね。」
 唐突に、天気の話でもしてるかのようだった。
 「そっか。」
 それ故にその身に渦巻く感情を推し量りエドはたまらなくなった。
 聞かなければよかったとは思わないけど。

 大佐の右腕のごわついた軍服の皺を頬に感じて、触れて耳元に聞こえる鼓動に引きずられる。
 エドは思わず、背に回した手に力が篭った。

 こんなときはどんな慰めの言葉も嘘臭くなる。
 ただ、こらえきれない激流を流すだけ流せばいい。
 意外に筋肉のついた二の腕の拘束はきつかったけど。
 しばらくすればそれも和らぐだろう。


 そうしたら。


 また、あの瞳で見つめて欲しいと思う。


 エドは祈るように腕に力をこめた。

作品名:embraced? 作家名:藤重