Swwet?
万年金欠の冴羽商事にしては珍しく、依頼があって。
それは喜ばしいことなんだけど・・・。
思い出したように降る雪のために暖房費もかさむし。
前金があったから暫くは生活できる。
貧乏な時はどんな依頼でもあればいいと思っているけれど。
そうして生活が安定してくると余計なことにまで気が回ってしまうからいやだ。
今回は依頼内容が社内機密に関わることなだけに相手も尻尾をなかなかつかませないし。
お陰で夜型の生活がまともな昼型の生活になり私としては嬉しい限りだったけど。
そうなると仕事中にかかわる人々が増えていく。
必然的にリョウに惚れる女性もいるわけで。
今は時期が時期だけにさらにリスクが高い。
「・・・・なんで私がアイツのお返しのために労力を使わなきゃなんないわけ??」
そう、ただいまキッチンでお返し用のクッキーを焼いているのだ。
バレンタインデーに持ち帰ったチョコは全部で5つ。
義理と解るものはいいとして。
問題は本命のような手作りチョコ。
決して華美ではなく、でも気持ちのこもったもの。
・・・じぶんが同じ気持ちだからか、よく解る。
どうするのかと問えば「テキトーによろしく」と、だけ。
勝手に答えてもらっても困るけれど、そうしたドライな態度にも腹が立つ。
まったく女心がわかってない。
「ふいー、帰ったぞー!」
・・・・まったく何処のオヤジよ。
いくらサラリーマンを装ってるからといって居酒屋よって帰ってきて『飯、風呂、寝る』まで実践しなくてもいいと思う。
「あり、かおりちゃんごきげんナナメ~ぇ?」
あまりの能天気さに腹が立つったら。
誰のせいよ。
「ん~?甘い匂い・・リョウちゃん甘いのキラーイ。」
「アンタが適当に貰ってきたチョコのお返しをテキトーに作ってんの。文句言わない!」
まったくむかつく男ね。
「あーどうりで、明日よろしくって・・・。」
「明日忘れずに持っていきなさいよね。」
はき捨てるように行ってキッチンへ戻る。
態度が刺々しいのぐらいご愛嬌だわ。
「なー、かおりちゃん。」
「なによ、少しぐらい待てないの?あとはお味噌汁暖めるだけよ!」
「・・・・・ああ。」
「はい、どうぞ。」
ほかほかの炊き立てご飯を丼ぶりいっぱい。
「あのな・・?」
「なによ、今度は醤油?」
テーブルに置いてあるでしょ。
「・・・それもそうだが・・・・あれだ。」
「あれ?アレって・・・お茶は食後でいいでしょ。」
それともビール?冷蔵庫を開けて缶ビールをほうり投げる。
「~~~~~あのな?」
「なによ。」
まだなんか文句あるわけ?
思わず眉根が寄ってしまう。
しわが増えたらエステ料金払ってもらうからね!
「折角作ってくれたの申し訳ないんだけど、必要なくなっちゃったんだよねー。」
「なんで?」
「終わったから。後金は明日にでも入るだろ。」
微妙な沈黙。
でかい身体を縮こませて申し訳なさそうな表情がささくれ立つ心をなだめる。
「・・・・そうなんだ。お疲れ様、リョウ。」
行き場のなくなったクッキーは自分の胃袋に閉じ込めてしまおう。
そうしてまたこの想いも飲み込んで・・・とっておきのおいしい紅茶で流し込んで。
すべて忘れよう。
「明日のお茶請けはクッキーで我慢してやる。」
「甘いの嫌いなんでしょ。」
そうやって変なとこで甘やかさないで欲しいよ。
「大丈夫さ、きっとしょっぱいよ。」
最後のささやきは聞こえないふり。
━━━涙味だからな。