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遊十小説その2

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「十代…さん」

「ん…?」

「十代さん十代さん…。十代、さん…」

うわごとの様に愛しいと思う相手の名前を繰り返し呼び、その身を抱き寄せ薄い胸に顔を埋める。細い腰に腕を回し、そのまま自らの身体で閉じ込める遊星。どこにも行かせないように、と。

「どうした遊星…?今日はいやに甘えっこだな」

くすくすと、くすっぐたさから身を捩る十代。

こんな遊星は久しぶりだな、と十代は思った。
いつもの寡黙でクールな遊星を知る周囲の人々は驚くかもしれない。滅多に弱さを見せないこの青年があからさまに人に縋る…などと。意外だと、瞠目するかもしれない。

手先は器用なのに、甘え方を知らない不器用な青年。育ってきた環境と境遇を考えれば仕方がないと言えるけれど…。

気丈に振る舞い、周囲の期待を背負い、と仲間達を奮い立たせる。自らも先陣きって迫り来る困難に立ち向かっていった。


だが、この青年とて一人の人間。どうにもならない不安やふとやってくる恐怖を抱くときがある。

そんな彼が自分に弱さを見せる。そのことが十代にどうしようもないほどの優越感を与えてくれた。


よしよしと頭を撫でる。外側に跳ねた個性的な黒髪だが、存外柔らかな感触が手にかえる。

十代にとって遊星はまだまだ子供だ。いくら外見では遊星の方が上に見られようとも自分が生きてきた経験にはまだ遠く及ばないだろう、と思う。遊星自身幾多の困難を乗り越えてきたとしても、まだまだひよっこ同然だ。

先輩の座はそうやすやすとどいてやれない。



しかし、当人にとってその扱いは不満だったようで、

胸に埋めていた顔がそろそろと首筋へと移動する。口唇が敏感なラインを辿り、ビクッと身体が反応を返した。そこには明確な意図を示していて…。

「こ、コラ…ッ!!遊、星…っ!?」

遊星の行動を察した十代は慌てて引き離そうとする。ちゃっかり裾から忍び込んでくる不埒な手を抑えることも忘れずに。


が、

「…駄目…、ですか……?」

首筋から顔を上げ、そのままの体勢で十代の顔を覗き込む。すると、普段は見れない藍色の上目遣いにグッと言葉が詰まった。


いや、別に嫌なわけじゃねぇんだけど…。


ここは遊星の自室ですぐ側にはお誂え向きの如く馴染んだベッドが鎮座されている。場所的にはこれ以上ないだろう。
しかし、今はまだ日が高いし少なからず人の気配がする。遊星自身への仕事の依頼がくることもあるかもしれない。下手すればたまたま遊びに来ていた双子に訪ねられたとしたら…、と恐ろしい末路を辿るのは目に見えている。
そんななかで行為に及ぶのはどうだろか、と十代を悩ませた。

だが、既にスイッチが入った(らしい)遊星はどうにも譲る気持ちはないらしい。下から十代を見上げているその双眸に鈍い光が宿っているのを見つけてしまった。


ここまで自分の気持ちを表す奴だったけ…?


こういう関係を結んだ頃のことを十代は思い出す。

はじめはおずおずとこちらを伺うように触れてきた遊星だったが、時を経つごとに…、その、…うまくなってきてると十代は思うのだ。その…、自分の扱いに…。(あとその他もろもろと)
当初はあまりのもどかしさにこそばゆい気持ちになったのだが。こっちから、「遠慮すんなよ、遊星」と苦笑いまでしてしまったのは、もう大分前のことだ。最近ではめっきり慣れた様子で自分に触れて来る。

更に性質の悪いことに天然なのか計算なのか、十代が弱いと思う行動をしてくる。(今やってる上目遣いがその一つでもある)


どんな成長具合だよ…っ!なんとなく悔しくなってしまう十代だった。

内心ため息をつき、(実際小さくてもため息をついたら酷く傷ついた顔をされた。それ以来自分の行動は自制するようにしている)少しばかり思案する。そして次にはニィと唇を横に引いた。遊星が気に入ってる(らしい)不敵な顔をつくって。

「…頑張ってるお前には、ご褒美やらないとな…?」

そっと顔を両の手のひらで包み込み、左眼下から頬へと刻まれたマーカーに優しく口付けをおくる。

そして、

「でもな…――イイ子じゃない奴には、やらないぜ…?」

無常なオアズケ宣言を掲げる十代だった。

緩慢な動作で顔を離し、遊星の眼を見て十代は小さくほくそ笑んだ。そこには、グラグラと思考を巡らしているだろう、遊星の姿が。己の中で葛藤しているがわかった。
チャンスは今。するりと抜け出すことに成功した。

ペロリと小さく舌を出す。

そう、こちらは与える側。まだ主導権は渡してやらない。
悔しかったらオレを超えてみろ。ああでも。


ハマっちまってるのはオレもなんだからデカいこと言えねえよな……。




熱い口唇で触れられた首筋を撫でながら、ハアと熱っぽくため息をつく十代であった。



作品名:遊十小説その2 作家名:名瀬みなみ