調子の悪いシズちゃんを臨也さんが虐めるだけ
「あーもう汚いなあ。なにやってんの」と言いつつ俺は、本来ならまったく全然近づきたくないのだけれど、嫌がらせの一環で、歩み寄る。
案の定がはげほと苦しそうにしながら、途切れ途切れに「近づくな」とシズちゃんは言った。
ばっかだねぇ。俺の信条が人の嫌がることをすすんでするってこと忘れたの。世のため人のため人を愛するために、俺は手を汚さずに手を下してるってのにさ。また覚えさせないとね、と一人で笑う。そのまま目の前の丸まった背中を蹴りとばす。元々崩れた体勢だったので、シズちゃんは受け身もとれず、無様に転がった。シズちゃんは素敵にゲロまみれ。汚いのと汚いのコラボレーション。掛け合わさって逆に綺麗になるとかそんなことはなかったので、汚いシズちゃんのできあがりだ。
「シズちゃんシズちゃんなに寝てんのほら立って。そんなに地面と仲良くしたい?俺より地面の方がいいってこと?」
そりゃ俺だってシズちゃんより地面と仲良くした方が数百万倍マシだけど。うん数千万倍?数億万倍?まあいいや。とりあえずシズちゃんよりは地面とラブラブしたい。
「シズちゃんシズちゃん起きてよ起きろよ俺はシズちゃんなんか運んでやる気はないんだからさ。ほら俺情報屋だし運び屋じゃないし。とっとと起きなよー」と言いながら俺は起き上がりかけるシズちゃんの背中を蹴る作業に没頭する。うんちょっと薬盛りすぎたかもしれない。反省。今度使うときはもっと量多めにしようと決める。いやほらシズちゃんのことだからもう薬に慣れちゃってるかもしれないしね。
別に起きなかったら蹴って動かすだけだけど。だって俺シズちゃんに触りたくないし。シズちゃんゲロまみれで汚いし。シズちゃん汚いし。あーでも一応目的地に持っていくことを考えてるってことは結構俺ってシズちゃんにヤサシイのかもね。でも、飽きた。
「ねえーシズちゃーん早く起きなよー待ちくたびれたー」と言いながら鳩尾を狙って蹴りとばす。シズちゃんは蛙が潰れたような音を出して、またげろげろ吐き出す。汚い。靴についた。
「あーねえーシズちゃんがマーライオンみたいにゲロゲロするからついちゃったじゃーん。舐めてって言いたいとこだけどシズちゃんに舐められたらもっと汚くなっちゃうからシズちゃんの服で我慢するよ!」といってシズちゃんのいつもかわらないバーテン服になすりつける。もうかなりの範囲シズゲロ(シズちゃんのゲロの略)がついてるからまだ汚れてないとこをみつけるの大変だった。シズちゃんは動かない。もう色々面倒になった俺は近くの店の裏口にシズちゃんを引きずっていった。
その辺の壁にシズちゃんをたてかけて、俺は目当てのものを探す。あーもうこんなに俺に手間かけさせるなんてシズちゃんは悪い子だねえまあいい子のシズちゃんなんて気持ち悪いだけだけど。ま、このあといっぱいシズちゃんで遊ぶからいっか、とか思ってたら目当てのものをみつける。勝手に拝借しますよーと心の中で呟いて無言の了承を得た。いやあこの店の人は心が広いなあ。二度とこないけど。
そして俺はシズちゃんのとこに戻る。
するとそこには少しだけど回復したのかぐったりとしながらも、俺をサングラスの下からぎらぎら睨みつけてくるシズちゃんが。あ、やだその顔。ちょっとクる。
「手前ェ、何、するき」
「シズちゃん汚いから、洗ったげる」
生意気にも喋りだしたシズちゃんの言葉を遮り、にっこり笑って、口を狭めたホースの先をシズちゃんに向けた。
作品名:調子の悪いシズちゃんを臨也さんが虐めるだけ 作家名:雨井戸