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Good Bye,太陽

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「……ファック」
小声でつぶやいた声はもう、誰の耳にも届いていないけど。
それでも呟かずにはいられなかった。


目が覚めて、部屋に誰もいなくて…ははっ、と乾いた笑いがひとりでに漏れた。
なんで、なにが、どうなって、こうなってしまったのか。
それよりもまず、どうして。なんでアイツがいねぇんだよ…ファック!
気分が悪い、胸糞悪ィ、口を開いたらファックとシットばっかり繰り返して、叫び疲れちまいそうだ。
…起きぬけにこれって、信じられねぇ。
もぞりと起き上がって、部屋に備え付けの冷蔵庫の扉を乱雑にあける。
ひやりとした冷気が漏れてきて、起きたばかりで少し高めの体温に心地いい。
水の入ったペットボトルをひっつかんで、キュ、とキャップをひねる。
冷たく冷えた水をのどに流し込んで、ごくごくと飲み下す。
「………なーに期待してんだよ、俺は」
もうどんな人間にも、どんなに頼りがいがあると思った奴にも、心は開かないって決めた。
背中なんて誰にも預けられねぇ、特に血の誇りとやらが高いイタ公風情には、だ。
それが、俺が、信じようとしてた?
むしろ、信じたいと思ってた?信じられる、コイツは違うなんてこと…少しでも考えてた?
「オイオイオイ、マジかよ……!ウソだろ?」
確かに、変わったヤツだとは思った。けど、それは、そういうんじゃなくて。
信じたいとか、背中が預けられそうとか、イタ公のクセに血にこだわらないとか、考えてないようで考えてるとか、そんなこと。
「……少しは、思ってた、けどよぉ」
そこまで言って、ハッとした。ペットボトルを放り出して、頬をつねる。
痛い。
ヤバイ、って本能が叫んだ。現実だ、夢じゃない。俺は、アイツを…ラッキードッグを"信じようと"してる。
棚の上に蓋を開けたまま置いたペットボトルをつかんで、浴室の方へ足を向けた。
これは悪夢だ、我に返って夢なんだって気づかせなきゃ…また、痛い目を見る。それは誰でもなくて、俺だ――…。



「は、」
ほっと息をつく。まだ感情は捨てられそうだ。信じていた人間に裏切られるのは、辛い。
出来れば、いや、もう二度と味わいたくはない苦み。
そう、簡単に食事なんてしねぇ。誰かが毒を入れていたら?その可能性は捨てきれない。
何しろ俺はハンパ者のrandagio(のらいぬ)だからな…そもそも、幹部になったことを快く思わないヤツなんて、ゴマンといるんだ。
そんなことを考えてるうちに、誰かが部屋の扉の前に立った。
気配も消せてなくて、やる気もなさそうで、オーラとか全然ねぇ。
正直これがラッキードッグだ、って見せられたって全然納得できないような、そんなヤツ。
アイツしか、マフィアの幹部で気配消せねぇヤツなんて…いねぇっつの。
「…イヴァーン、なんかいるものあるかー?」
扉の向こうからのんきな声がかけられて、びくりと身体が震える。
これで、決まる。俺が、他の幹部たちと【仲直り】できるかどうか。

だったら、なぁ、お前さ…ジャン。
そんなのんきな声出しといて、気配がどこかそわそわしてるの、丸わかりなんだっつーの。
ちょっとは隠せるようになれや。

心の中で呟いて、腰かけていたベッドから腰を上げる。
向かう先は、ひとつ。
立ち上がって歩きだした瞬間、ベッドサイドに置いてあった45口径の銃を手にして。
セーフティを外す。これで、いつでも発砲できる。
そうして、ドアの前に立った。
ドアノブに、手をかける。がちゃっ、と扉をあける音だけが空間に響いた。




最悪だ。あんなヤツを信じようとした俺がバカだった。
…いや、むしろ。きっとあれくらいの方が、2代目ボスになるにはふさわしいんだろう。
でも、だ。それをファミリーに向けるのは間違ってる、あのやり方では血の粛清だ。誰もついてこない。
そもそも、あいつはまだ2代目カポ候補、ってだけであって、年功序列は俺の方が上だ。
俺が幹部第4位でアイツが幹部第5位。それを、跪かせて靴をなめろ…?
「……っ、反吐が出る」
アイツは誰だ、まるで、違う。いつも何も考えてないようなへらへらした笑顔を浮かべてるのが、アイツで。
でも、さっきは違った。瞳に浮かぶのは、憎悪と蔑み、口許に浮かんだ笑みは嘲笑で。冷えた目をしていた。
「ワケわかんねぇよ……くそっ」
けれど、これで腹は決まった。あとは、アイツが俺の願いを聞き届けてくれるかどうか。
俺が待つのは、部下たちが届けてくれるシャンパンボトル。

仲直りなんてできるはずもない、だって元から直すほどの絆も仲でもなかったのだから。
少なくとも俺は、お前らを信用してない。この世で信頼できるのは、自分だけだ。





高級ホテルのスイート、それは跡形もなく。
壁は銃弾を飲み込んで抉れ、まさに蜂の巣状態で。
調度品は弾丸と飛び散った血で汚れ、とても美しかった部屋だとは思えない。
そんな見るも無残な惨状へと化した部屋の中、立ち込める硝煙の向こう、冷えた感情のない瞳をしたイヴァンがいた。
いま、部屋にいる人間の中でスーツを着ていないのはイヴァンただ一人だけ。
何事か指示を出すイヴァンの服や顔はどす黒く変色し始めた血液がこびりついていて――…。
幹部たちが集い、他愛ない話や会議をしたその場所は、一段と床が血に染まっていた。
否、むしろそこは血だまりで。
「………お前だけは、信じられたかもしれないのになぁ」
冷たく微笑んだイヴァンの目が、映すのは金の、太陽の髪を持っていた人物の、変わり果てた姿。
「隊長、」
じ、としばしの間視線を注ぎ、何事かを考える。
部下の声で顔をあげて、イヴァンは踵を返した。そしてもう2度と、振り返ることはなかった。
「嗚呼、行くぞ」
今度逢ったら、お前だけは殺す。この手で、確実に。ラッキードッグ、ジャンカルロ。
俺が唯一、信じたいと願った最後の人間。

「……ファック」
…だから、これだからイタ公なんて信じられねぇんだよ。
作品名:Good Bye,太陽 作家名:紫苑