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言葉では足りないこの気持ちを、

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「…ごめんな、蓉司」
ぽつりと呟いた声は、風に乗って霧散する。
「大好きだよ、今までもこれからも……」
ずっと、

もう逢えないから、だからこそきちんと伝えたいんだ。
蓉司、短い間だったけど…オレは。
オレは、蓉司と友達になれて…本当によかった。


最初は、とっつきにくいと思ってた。
笑わないし、年上だから…なんだか遠慮してて、周りと壁があった。
人を、信頼してない瞳。ちっとも楽しそうに笑わないその瞳が、妙に印象的で。
感じ悪いなぁなんて、思ってたんだっけ。
でも、あの日を境にそれは変わった。

「…あ、スイマセン」
深夜のコンビニ、手を伸ばした先の狙いのソレはラスト1個。
ラッキー、って思いながら手を伸ばしたら、隣から色白の手が伸びてきた。
同じ最後の1つを求めて伸ばされた手に、反射的に謝った。
「あ、俺の方こそ…」
謝り返されたその声に、視界に入った色に、見覚えがあって顔を向けた。
視線の、その先。
色白な肌、対照的な黒い髪。着ている服は、自分の着ている制服と同じもの。
私立駒波学園の、指定制服。

「…ってあれ、もしかして同じクラスの……?」
その声に、視線の先のクラスメイト崎山蓉司が視線をよこした。
制服と、声を確認して崎山の口が"あぁ、"と納得したように小さく動く。
「それ、」
不意にかけられた声に、引っ込めかけていた手を止めて「うん?」と振り仰ぐ。
たった数センチ、その身長差。
「三田が、買えばいいよ。俺は別のでも構わないから」
そう言った彼の指は、今しがた手をのばしていたジュースを指し示してて。
いつも通り、笑顔じゃなかったけど。
けど、言葉の端々から…そう、温かみを感じた。
なんでかはわからないけど、その時は笑ってくれてる、ってそう…思ったんだ。
「え、マジで?」
思わず聞き返す、視線が真正面から交差する。
「とっつきにくいと思ってたけど、なんだ崎山優しいんじゃん」
笑みがこぼれる。ふと気がついて、心があったかいのを自覚した。
それからだ、蓉司と仲良くなったのは。



「約束…破るんじゃねーよ、蓉司ィ……」
歪まないように必死に堪えても、こぼれる、落ちる。
視界が滲みだして、笑みが保てなくなる。
絶対にオレ、今ひどい顔してるんだろうなぁ…蓉司は、こんな顔のオレを見たらなんていうかな?
笑う?それとも、いつもの穏やかな声でさ「睦、顔」って、苦笑しながら言うのかな。
ねぇ、蓉司…オレのこと、もっと知りたいんじゃなかったの?
もっといろいろ、オレのことも蓉司のことも話し合って、また友達としてやっていこう、って。
蓉司が言ったんだぜ…?なのに、なんで蓉司がいないんだよ…。

オレ、ホントもうダメだって。絶対に嫌われた、気持ち悪がられたって。
独占欲とかさ、カッコ悪い。挫折とか、味わったことなくて…思い通りにいかないから脅すとかさ。
ホントもう、オレ…何やってたんだろうな…。
自分で自分に絶望した、なのに蓉司は突き放さなかった。
むしろさ、もっと早くもっといろんな話をしてれば、なんて…そんなこと。
忘れよう、って。もうオレ蓉司の友達って位置に入れるだけでいいじゃんって、そう思ったんだぜ?


「…歯車が、狂っちまったのかな…」


あの時から、蓉司の身体から…形容しがたい匂いを感じるようになってから。
あの時から…、きっと。オレたちの日常は、どこか破綻してたんだ。
でも、でも…もっと別の、行きつく先が…なかったのかよ…。


蓉司、蓉司、蓉司、蓉司。

「よう、じ……ッ」

なんで、いないんだよ?
久々の学校なんだぜ、オレ。わかりにくいその笑顔でさ、「久し振り」って笑ってくれるんじゃねぇのかよ?
休みならまだ許せた、いないって…どういうことだよ?
蓉司だけじゃない、城沼も。翁長だって、いない。
オレだけが、残された。…ウソだろ、なぁ蓉司。嘘、だよな?


だって、この世のどこを探してももう、蓉司がいないなんてそんなこと…考えられない。
あの、ちょうどいい距離感。きっぱり別れたテリトリー。
それを守りながら、互いに存在する場所を求めてる。
そんな、蓉司との関係性がオレには…すごく心地よかったのに。
……もう、戻れない。
蓉司が許してくれて、元の関係に戻れるんだって心躍らせてたのに。


蓉司の馬鹿、オレは結局…オレにとってお前が大切な友達で……。
すっげぇ大好きだったんだって、何一つちゃんと本当のオレの言葉で伝えてねーんだぞ……?
蓉司、それでも…さ。
オレは、蓉司が死ぬとき…幸せだったんだったらそれでいいかって、そうも思うんだ。

だから、

一つだけ、聞かせて蓉司。
蓉司は、死ぬとき…怖くなかった?ちゃんと、幸せだった?



きっと、蓉司のことだから「あんまりよくわからない」とか答えるんだろうな…。
でも、それって蓉司が幸せだったってことだと、オレは思うんだ。
だって蓉司……、嫌なことは嫌って全力で拒否るもん。
だから。
「…蓉司が幸せだったんなら、いいんだ」


でも。
でも、蓉司がオレと交わした約束…。
"もっと睦の話が聞きたい"
蓉司…ちゃんと、約束守ってないよな?
だから、いつか。
絶対に、ちゃんと約束守れよ…蓉司。

だから、俺と約束して、
生まれ変わっても、またオレと蓉司は…友達だって。




あぁ、なぁ蓉司。大好きだよ、
だから、
「……今は、おやすみ」
いつか逢う、その日まで。その日までに、その病弱な身体、なんとかしとけよ?