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この想いに気付いてはいけなかった

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反則ダロ、なンでお前は耐えンだヨ?
教師なんて信じられるワケねェって、ずっと思ってたってェのに……。
「ココまで骨のあるヤツなンて…初めてだぜェ?」
イタズラを考えるのも、毎日どんな反応が返ってくンのかってェのも…楽しみで仕方なくて。
毎晩毎晩、帰って来てから寝る間もないくらいにずっと、湧いては消えるイタズラのネタも。
…ブチャのコトを考えたら、止まらなくなるンだ。
こんなイタズラをすれば、ブチャならこんな風な反応を返すンダローなァ、とか。
気が付けば考えてンのは…ブチャのことばっかで…。
頭の中がいっぱいで、他のなンにも考えられなくなる。
気付きたくねェ、知りたくなンてなかったこの気持ち。
気付いちまったら、もう手遅れなンだ。…そんなコト、分かってたハズなのに。
ここまで骨のあるヤツだなンて思ってもみなかった。
今までに女の教師が、オレらの担任になったことなンてまずなくて――…。
耐えられるワケねェ、男でも耐えらンねェのに…女が耐えられるワケなんてねェって。
ゼッテェ音を上げる、だったらさっさと追い出してヤローゼ?って、そう思ってたのに…そンなの見事に裏切られて。


だけどヨ、オレ様はそれがイヤなんかじゃなくて…むしろそれが嬉しいとすら思えてきて。
最初はウットーしいヤツが来たナァ、ってそれしか思ってなかったのにヨ。
いつの間にか、毎日ブチャに仕掛けるイタズラを考えンのが日課になってた。
どんな卑劣なイタズラでも、どんだけつれェイタズラでも…ブチャはびしょ濡れになってでも、這ってでもオレ様を追いかけ回すから。
その間だけ、オレ様だけに向いてる…その瞳がいつン間にか恋しくなってた。
何があっても真っ直ぐに、オレ様を見据えたその瞳は、まァたまには怯えを垣間見せたこともあったけどヨ?
その方が人間らしくて、必死に、真っ直ぐにオレ様たちにぶつかって来てンだナ、ってわかるから。
だから、だから逆に――…。
「気付きたくなかったンだヨ、ブチャのヴァーカ……」
気ィ付いちまったら、オレ様はゼッテェに後戻りできなくなる。
好きで好きで堪ンなくなっちまう。
なのに、気ィ付いちまったから、オマエからオレ様を避けるように仕向けたくて仕掛けたトラップに、ハマったのはオレ様の方で。
…バッカみてェダロ?自分の仕掛けたイタズラに、まんまとハマって…抜け出せなくなるなンてヨォ?
あンとき、挫けて泣きでもしたら…ゼッテェにゲンメツできた。こンだけ耐え抜いて来といて、イマサラ耐えれなくなるンかヨ、ってそう思えた。
なのにあンときオメーは、確かにすっげェ傷ついてたけど、それでもオレ様に真っ向から向かってきやがった。
あンときの、泣きそうなカオして…でも真っ直ぐで曇りのねェ、いつもの瞳でオレ様にビンタかましたカオだけは、どうしても忘れられねェンだヨ。



「清春君、何ボーっとしてるの!補習中なんだから集中しなくちゃ」
なァーンでオレ様はアレから毎日、飽きるコトもなく律儀に毎日補習に出てンだ?
たァまに、浮かぶそんな疑問。でも、答えなンて分かり切ってるダロ?って、頭の隅でそンな声がするンだヨ。
ゼッテーに、これから何年経っても忘れねェヨ。
ここまで真っ直ぐに、オレ様たちB6に体当たりで挑んできたキョーシなんて、ブチャが初めてで。
初めて、ここまで誰かに執着して…「嫌いだから」って理由じゃなくて、「好きだから」なンて理由でイタズラを仕掛けた。
オレ様にとっては、なンもかンもブチャが初めてだったンだヨ。
誰かに向けてる笑顔も、オレ様以外と交してる言葉も…全部オレ様にだけ向けさせたいなンて思うくらいに。
「あァ、わーりィブーチャ?オレ様ちょォっとォ、トリップしてたみてェだゼ!」
キシシ…、と独特の笑い声を響かせながら。
心なしか温かく感じる、そんな胸元に手を当てて。
「…どうしたの、清春君?具合悪いの?」
急に真剣な顔つきで胸元を押さえた清春に、悠里が心配そうにその顔を覗き込んだ。
キレーな眼をしてンなァ、ってこういうときに思う。
誰かに騙されたことなンてねェんだローナ、ブチャは。
だからあンな風に、ガッコーからも周りの生徒からも、キョーシからもよく思われてねェオレ様たちを無条件に信用できンだヨ。
誰かに心の底から信用してもらったことなンて、オレ様にあったカァ?って考えてみたら…、答えが出ねェンだヨ。
オレ様の方が、心から信用したことのある奴なンて限られてて――…、だから相手がどうかなンてわかンねェんだヨ……。
けど、だからこそブチャはゼッテーに初めてなンだ。
オレ様のことを、こンなにも信用してくれて……オレ様がこンなにも信用してもいいナ、って思ってるヤツなンて、初めてなンだからヨ。



「なンでもねェヨ、気ィすんな。
…それよりブチャ、さっさとホシューの続きすンぞォ!」
近くに、ともすれば吐息が触れ合いそうなほど近くにあった悠里の額を指で小突きながら、小悪魔は高らかにそう言った。
「痛っ」と小さく声を上げながら、けれど悠里はくすくすと笑みをこぼす。
清春が怪訝そうに悠里を見やれば、彼女は幸せそうな笑みを浮かべてあのね、と言葉を紡ぎだした。
「あれだけ勉強なんて、って言ってた清春君が、自分からそう言ってくれるようになったんだな…、って嬉しくて」
だから、清春君が頑張ってるんだもの…私ももっと頑張るわね!と張り切って小さくガッツポーズをして見せた悠里に、清春は小さく溜息を吐いた。
……バカブチャ、ホンットーにニブいンだからヨ…ッ!
「あァ?ンーじゃァオレ様がもーっと頑張ったら、ブチャイク先生ももっと頑張ってくれンのかヨ?」
この思いには気付いちゃいけなかったンだ、それが分かってるのに…なンでだヨ?なンでオレ様は決定的なモンを欲しがってンだ…。
これで、Noが返ってきたら?そンときはそンときで、まァたオレ様は挫けちまうンダロ?
Yesが返ってきたら、オレ様はもっとブチャにのめり込んじまうってェのにヨォ…。
ホント、バカはオレ様の方だゼ…。
「勿論よ、清春君が頑張ってるのに、私が頑張らなくてどうするの!」
にこやかな笑顔でそう断言されて、悪い気なンてしねェよナ?



「…ンーじゃァブチャ、オレ様もォっと頑張ってやるヨ!だから…
ブチャもオレ様のタメだけに…、頑張れ。イイナァ……?」
気が付いてしまったこの想い、胸を温かくさせる想いは……もうしばらく胸の内に秘めて。
まァだもう少し、もう少しだけ…このイタズラに秘めた特別な想いには気ィ付かないでくれヨ…?
ゼッテーに、オマエをオレ様のコトだけしか考えられねェようにしてやるから、その日まで。
但し、ゼッテェ卒業したらオマエをオレ様のモノにしてやる。だから――…。
それまでどっちが音をあげるか、勝負だぜェ…ブチャ?


心の中で宣戦布告して、清春は目の前の悠里に不敵な笑みを浮かべて見せた。
(ココまでオレ様をマジにさせたンだから、責任取れよ…悠里?)