意思表明
パシッと音を立てて、黒子っちからのパスが通る。
残り数秒――――
見惚れるようなフォームから放たれて、そのボールはゴールへと吸い込まれていく。
そして、試合終了のホイッスル
試合はオレ達の勝ちで終わった。
残り数秒の逆転
ブザービターでトドメを刺された相手チームは放心状態だ。
キレイなホームから放たれる、最悪な点数
せっかく勝っていたのに一気に逆転を許されてしまう。
味方だから良いけど、オレだってもし敵だったら結構ショックを受ける気がする。
ボールを放った張本人は特に表情も変えず、挨拶もソコソコに体育館を出て行った。
長居は無用と言わんばかりに……
「それにしても……」
あのクマは何とかならないのかな?
「黄瀬君、行きますよ?」
「え、あ・うん……」
ボンヤリと見送っていたら、背中をポンと叩かれた。
ちっちゃくて、可愛い黒子っち。
本人に言ったら殴られるとは思うけど、でも可愛い。
黒子っちに和みつつ、促されるままに控え室に戻る。
「お疲れッス」
先に戻っていた緑間っちに声をかけた。
見惚れるようなスリーポイントシュートを放つ、キセキの世代?1シューター
『緑間 真太郎』
おは朝の占いを心の底から信じていて、試合の有る無しに関わらず必ずラッキーアイテムを持ち歩いている。
今日のラッキーアイテムはクマのぬいぐるみ
身長180?越えの男子中学生が持ち歩くものじゃない。
それでも本人は全く気にせずに持ち歩いている。
良く言えば、自分をしっかり持っていて流されない(占いは別にして)
悪く言えば、変
変だよ。うん。
「……アレ?もうテーピングしちゃったんスか?」
控え室に戻って、着替えようとした時
ふと、緑間っちの指先が目に入る。
既にテーピングの施された長い指
シュートを決めるのに爪の手入れは欠かせないんだとか……
流石のオレもアレはコピーできる気がしない。
まぁ、それを言ったら他のみんなのプレイもだけど。
「試合は終わったからな」
「ふーん……」
心の中でだけ残念と言いながら緑間っちの手に視線を戻す。
「……何だ?」
「いや、キレーな手ッスね。手タレとかできそう」
「興味ないのだよ」
「うん。でも、できそうッスね」
緑間っちの手を取ると、ちょっと嫌そうな顔をされた。
「……放すのだよ」
「うん。ごめん」
言われるままに手を放す。
本当はもう少し、……もう少しだけ
「黄瀬、早く着替えるのだよ。もうみんな着替え終わってる」
「え?」
パッと思考が戻る。
周りを見ると、確かにみんな着替え終わっていた。
「うわっ!直ぐ着替えるッス」
「早くしねぇと置いてくぞー」
「ええっっ酷いッスよ!!」
途端に騒がしくなって、いつもの喧噪が戻ってくる。
何だろ?
変な感じ
急いで着替えると、そのあと一端学校に戻る。
一応報告とか色々あるんだって。
別にみんなで行かなくてもいい気はするんだけどね……
学校に戻って、軽いミーティングのあと帰路につく。
オレと緑間っちは帰る方向が一緒だから、こーゆー時は一緒に帰ることが多い。
まぁ、緑間っちはあんまり寄り道する方じゃないってのもあるけど……
2人だけって凄く珍しい。
「ねー緑間っちー」
「なんだ」
「どうやったらスリー打つの上手くなるッスか?」
「……そんなの、日頃の練習に決まってるだろ?」
「うーん……だから、コツ…見たいな?だってスッゲー緑間っちのフォームキレイだし。オレあんな風にできない」
「練習あるのみなのだよ」
「……それコツって言わない」
「……オレのシュートタッチは爪のかかり具合が重要なのだよ。だが、お前もそうだとは限らないだろ?」
「人それぞれって事?」
「オレの練習方法が必ずしもお前にあうとは限らない。お前はまだ始めたばかりなのだから、真面目に練習をこなすことが重要だ」
「コツコツねぇ……」
「人事を尽くして天命を待つ。と言うだろ?」
「……うーん?」
緑間っちの言葉に軽く首を傾げると、ちょっと呆れた顔をされた。
仕方ないじゃん?
オレ緑間っちほど頭良くないし……
てか、運動も勉強もパーフェクトにできるヤツの方が少ないって言うか……それぐらい緑間っちが真面目にやってるって事ではあるんだけどねー
「でも、オレそんなに外強くなくても良いかなー」
「できて損はないのだよ」
「うん。でもさーオレ緑間っちがスリー決める所見る方が好きだし。スゲーキレイなの」
シュッと手でボールを打つ真似をする。
あんなキレイなフォームは真似できない。
アレは見ているだけで良い。
それだけで、
それだけで―――?
「どうした?」
「オレ、……緑間っちが好きかもしれない」
「は?」
ちょっとの間が開いて、緑間っちが驚いた表情を見せる。
ちょっとマヌケっぽい。
オレは緑間っちに近づくと、触れるだけの『キス』をした。
「……っ!?黄瀬!!」
「うん。やっぱりそうだ」
緑間っちに向かってニッと笑う。
「何なのだよお前は……」
片手で顔を覆って、あーともうーとも呻いている。
「うーん……なんか、さ。やっぱり好きなのかなぁーと」
「オレは男だ」
「緑間っちが女の子に見えたら、オレ眼科か脳外科医かないと……」
「今すぐ行ってこい!」
「ヒドッ!!……でも、好きに理由はないし。仕方がないよね」
「仕方がないで片付けるな!」
「いやいや、だって、好きなものは仕方ないし。あ・オレここだから。また明日ね」
いつの間にか別れ道に差し掛かっていた。
オレは未だ混乱している緑間っちを置いてそのまま道を別れる。
明日、どうなっているだろう?
無視されるかな?
色んな事が頭の中でグルグルと回っていく。
主に悪い事
でも、言ってしまったものは仕方ないし、好きって気持ちもホントだし。
「なるようになるかなー?」
オレは意思表明をした。
次は、そっちの番だ。
END