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知りつくさなきゃ気が済まない

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「やっぱレタス少ないような…」
「少なくない。出せ」
「でもー、ほらいつもより軽い」
「平気だ」

急げよ、と怒られて渋々それを出す。お客さんから量が少ないというクレームを受けたことはないけれど、気になるのだから仕方ない。
こういう時の俺の扱いを佐藤君はよくわかっている。忙しいならさっきのように口で促し、暇なら俺の手から皿を奪って轟さんに渡す。

金髪の見た目のせいか、チャラいとか思われやすいけれど中身は全然違う。さっきみたいに、言葉は悪いながら、個人の特性をわかって行動してくれる、優しい人だ。人付合いも上手い。ま、安全に行きすぎているから、ヘタレと言われるのだろうけど。

「ちょ、いたっ!」
「声に出てるんだよ、阿呆。働け」

本音って上手く隠せないものだよね。あまり言うとフライパンが飛んでくるから止めるけど。
しかし働けと言われてもだ、オーダーは入っていない。食器も戻っていないしやることもなくて、そっと佐藤君の手つきを見た。
無表情のまま手を動かし、料理を作る綺麗な長い指先。バイトもやって、バンドやって、轟さんのノロケ聞いて。中々の勤労青年だね、佐藤君って。

「お前はやることないのかよ」
「佐藤君だってそれ作ったら終わりでしょー。先に終わった俺にやることなんて、皆と楽しく話をするくらいじゃない?」
「……お前、さっきも仕事代わってもらってただろ」
「うん、皆優しいよね。お話してただけなのに」

はぁ、と深い溜め息。ゆするのもいい加減にしとけと注意をしながらも、作業を進めて出来上がる綺麗なオムライス。俺も同じことをいつもしているのだけれど、上手いな、と関心してしまう。きっと彼の作った料理だ。きっと---

「そうだ!」
「なんだ、いきなり」
「俺にご飯作ってよ。長い間働いてきたけど、佐藤君の作った料理まともに食べたことないでしょ。だから、ね」
「『ね』じゃねーよ。相馬も作れるだろ」
「あら、二人とも楽しそうね」

ふわりふわり、周りに花でも飛ばしているんじゃないかという空気を纏って来たのは轟さんだ。持ってきたのはオーダーではなく、彼女の大好きな店長からの連絡。

「相馬君休憩だそうよ。忙しかったからゆっくり休んでね」
「八千代ー。パフェ食いたい」
「はーい。今行きまーす」

あ、佐藤君のご機嫌が斜めだ。あっという間に走っていった後ろ姿を見て、溜め息がわりにそっと息を吐く。彼なりのやり過ごし方も何百回も見たからわかってしまう。
そんな彼には申し訳ないが、俺の話を思い出してほしい。親しい人の全てを知り尽くすのが俺なんだから。

「ねー、佐藤君。俺休憩だってー」
「だからなんだ」
「休憩ってことは調理はしなくていいってことでしょ。だから佐藤君、ご飯作って。勿論お金出すしさ」

轟さんもいいところにやってきてくれた。これなら断る理由はない。
面倒だ、そう言いながら俺に背を向けて、冷蔵庫を開ける。取り出すのはどれも、中途半端に余った食材。

「お前は余りで十分だ」
「構わないよ」

メニューにあるきちんとした料理を望んでいるわけじゃない。なんでもいいから、彼の料理が食べたいのだ。
かったるそうに、でも指先は迷いなく、食材を刻んで炒めて出来る料理はいたってシンプル。

「ほら、これで満足か?」
「うん。いただきまーす」

佐藤君は呆れたように頬杖ついて、何が楽しいんだか、と言葉を漏らす。この意味を佐藤君はまったくわかっていないようだ。

「なんで作ってほしかったか、聞きたい?」
「興味ない」
「ほら、よく言うじゃない」
「聞けよ」

俺は無視して話すことを決める。これを言った方が面白くなるのは間違いないから。わかりにくくてわかりやすい彼が、わかりやすくわかりやすくなる、唯一の表情。

「料理って人柄が出るってさ。だから佐藤君が作ったものならきっと、なんでも優しい味がするんじゃないかなぁって」
「なっ……」
「適当に作ったって言う割にさ、やっぱりそういう優しさが出てるよ、これも」

あ、真っ赤になった。照れてる。顔を俺から背けて、そっけない返事。染まった赤の耳が見えていると、言ってやろうかと思ったが止めた。面白いからね。

すっかり黙った佐藤君を他所に食べ進めていく。落ち着くまでの時間を観察に充ててわかったのは、食べ切るまでがちょうど照れが収まるまで。うん、長い。

「ごちそーさま」
「ん、」
「今度俺が作ってあげるよ」
「…お前が作ると、変な味しかしないんだろうな」
「ひどっ!絶対美味しく作れるよ。だって美味しさの秘訣は愛情でしょ。俺、佐藤君のこと好きだし、大丈夫」

満面の笑みで言ってやると、佐藤君はフリーズ。さて、困るか怒るか。どういう反応が返ってくるだろう。期待を込めて見ていると、握られるフライパン。

「ちょ、それさっき使ったばっか!熱いでしょ、絶対!」

流石にそれはやばい。体も痛ければ心も痛い。そんなのは勘弁だ。しかし下がるスペースはないし、さてどうしようか。
無言で襲い掛かる佐藤君。逃げ場所はただ一つ。フライパンを掲げる手を掴みそのまま接近。




このまま襲われてうやむやになるのは嫌だ。いい機会だし、ね。




驚き怯むその唇に、証拠のキスを一つ落としてあげた。