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【我が家新刊サンプル】誘惑コレクション

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誘惑コレクション

#1

「兄さん、悪ふざけも程々にしてくれ」
 眉間に皺を刻み、目を細めて俺を睨みつけてくる。けれどその目は、戸惑いの色を映して揺れていた。
「ふざけてなんか無い」
 実際、俺は真剣だ。それが分かるからこそ、ヴェストも困惑しているのだろう。普段のように冗談交じりの軽い調子で言えば、遠慮なく手か足が飛んできたのだろうが、そう出来ない理由が今のヴェストにはある。
 俺の真摯な態度に弱いからだ。長年、教育する立場にあった者だからか、それとも、惚れた弱みか。ヴェストには、俺に対して逆らえない部分という物が確かにある。とにかく、これが弱点であり、滅多に使わない俺の切り札だ。
「良いじゃねぇか」
「良くない! まだ仕事中だし、大体こんな所で」
「もうすぐ終わりだろ? こんな時間に、誰も来ねぇよ」
 自分が『こんな時間』に訪ねておいて、矛盾した物言いだがそれは目をつぶっておく。
「今からやる事なんてもうないだろ?」
 手を伸ばすと、ヴェストは身体を硬直させた。つい、と首筋に指を這わせると、伝わるのはしっとりと濡れた感触。
「しかし……ほら、汗も掻いているから!」
 ヴェストは、なんとかして止めようと理屈を並べ立てている。だが俺は、それを一言で一蹴した。
「関係ない」
 それ以上の反論を奪うように、唇を塞いで深く口付けた。舌を絡めながら、腰に回した腕に力を込めて強く抱きしめる。
「ふっ……んぅ」
 長い長い口付けの後、ヴェストはずるずると椅子に沈みこんだ。俺は椅子の背に肘を掛け、ヴェストに覆い被さるようにする。最早完全に、逃げ場などない。





#2

(……素直に言えば良いのによ)
 分かり辛いねだり方などせずとも、言葉にして言えばいいのに。そう出来ない性分なのは、誰よりもよく分かっているけれど。いつもははっきり物事を言う癖に、こんな時だけは躊躇うのだ。いつまで経っても初心で、そんな所も可愛いとは思うけれど、時には困る事もある。
 他国の者も同じホテルに泊まっているはずだから、今日は抑えるつもりだったのだが。いや、酔ってさえいなければ、ドイツだってこんな事はしなかっただろう。
 逡巡したのはほんのわずかな時間で、プロイセンは結局、弟の希望に応えてやる事にした。
 そう簡単に音や声が筒抜けるとも思えないし、プロイセンが聞いた限りでは、他国の者は結構離れた部屋に泊まっているはずだから問題ないだろう。集まると騒がしい連中が多いからと、日本は離して配置したらしい。勿論、彼がそんなにストレートに言う事はないので、彼が言う所の『八橋に包んだ言い方』だったが。
 何より、こんな風に求められて、自分が抑える理由はないのだ。
 ベッドに横たわるドイツのワイシャツのボタンを外そうとして、ふと首元に留まっている赤いネクタイに目を留めた。
 途端に、湧き上がるのは加虐心。
 首元から下がっているネクタイを引き抜くと、プロイセンは手早くドイツの手首を押さえ、頭上で縛り上げた。ドイツの表情が、困惑の色を強く映す。
「え?」
「さっき嘘吐いたからな。お仕置きだぜ」
 口実なんて何でもよかった。ただそれっぽい事を言っておけば、酔いでまともな判断力の欠けているだろうドイツは、深く考えずに納得するだろうから。
「ケセッ……可愛がってやるよ、ヴェスト」




#3

 天気の良い、休日の朝。清々しい空気の中、俺は重苦しい気分で溜息を吐いた。
 今居るのは洗面所で、鏡に映る自分は酷く情けない顔をしている。その原因は、自分の格好にあった。
 俺が身に着けているのは、所謂メイド服というものだ。ふわりとスカートの広がる濃紺のワンピース、その裾には白いレースがあしらわれている。それからフリルのついた白のエプロンドレス。胸元には赤いリボンが付いている。スカートの下は短いドロワーズと黒のオーバーニーで、靴は濃茶の編み上げブーツ。頭には何故か、黒くふわふわとした毛の、猫耳を模した飾りが着けられている。そしてお揃いの尻尾まで。
 一度フランスに着せられた事があるこの格好は、やはりどう見ても似合っているとは言えず、鏡の中の自分を直視出来ない程だ。俺には間違っても女装などという趣味は無いし、好きこのんでこんな格好をする事などあり得ない。
 それなのに、どうしてこんな事になってしまったのか。
 発端は、些細な事だったように思う。







 ……もう嫌だ。反論の言葉どころか、溜息すらも出て来なかった。
 兄さんは俺を閉じ込めるように、壁に手を着いた。僅かに見上げる赤い瞳が、じっと俺を捉える。今度は何を言われるのだろうか。思わず身構えたが、俺の胸中を占めるのが不安だけではない事に気付く。
 自分も、人の事を言えないのかもしれない。混ざり込んだ感情は、ほんの少しの、期待。
「な、スカート、自分で捲って見せてくれよ」
「それは」
 訊き返す前に、兄さんはニヤリと笑んだ。
「あぁ、御主人様の命令だ」
 そう言われてしまえば、拒否は出来ない。そういう約束だから、と言い訳染みた事を自分自身に言い聞かせる。
 兄さんが後ろに下がって距離を取ったのを確認すると、俺は両手でスカートの布地を掴み、ゆっくりと持ち上げた。焦らしたつもりはない。ただ、兄さんの視線が注がれているのが、恥ずかしかったからだ。命令とはいえ自分から誘うようなこの仕草がはしたなく思えて、そんな自分に目眩がする。