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お姫様で居られない

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早く声変わりが来れば良いのに、と思っている。
「あっ岳人駄目やんこんな汗臭ぃまんまで」
侑士のカバンから女子のよく持ってる黄色い缶が出てきて、白いスプレーが俺に吹き付けられる。むせるような甘目のシトラスが一帯で香り、俺達の知らない更衣室の匂いで充ちる。高く一つに髪をくくった白いうなじの匂いだ。
「けむい」
「スマンなーいちご牛乳やるから許してや」
気付いたら何時もお昼を一緒に食べていて、なんだか策に嵌まっている気分だ。お詫びにと掲げたいちご牛乳も侑士が好んで飲む類いのものではなくて、多分始めから俺に与えられるべく侑士の手にあったのだ。そういう小道具でキャラクターを規定してくるのが侑士は凄く上手い。
「がっくんまたパン買うてんの、持たないやん」
「別にあとでまた食べるし練習前に」
ダブルスのパートナーだからって四六時中一緒にいなきゃいけない訳じゃない。
「ここ怪我してん」
「あー体育でボールぶつかったかも」
「あかんやん顔折角かわいいのに」
痕になったら困るでほんまに、と準備のいい侑士が何処からか取り出したハンドタオルで頬を拭う。俺の機嫌が二段階くらい下がる。プリンもあるで、と侑士が差し出すので俺のデザートは自分が買ったゼリーも合わせて二つになった。可愛い子は可愛いモンが似合うと言われて俺はさらに機嫌を悪くする。
「侑士さあ、前も言ったけどコレ」
「何?」
「なんか間違えてるみたいだけど、俺男なんだよ?」
「何言うてるのんがっくん、そんなん知ってるわ」
「知ってない分かってないよ、俺も侑士と同じ男の子なんだよ。そりゃ背はちいちゃいし髪もちょっと長いし蛙も怖いけどさ、」
「嫌やそんなん聞かん、聞きたない」
「男の子なんだよ、侑士、聞いてくれよちゃんと、そのうち髭も生えるし背も伸びるし、女の子好きだし、トイレも行くし、汗臭い男の子なんだよ」
「嫌やそんなん分からん、ずっとかわいいがっくんで居てくれな嫌や」
本当に悲しそうな顔をする侑士を見てしまった、と思う。こんな風に悲しませるつもりはなかったのに、いつも凄く下手で自分に腹が立つ。
解ってる。侑士の魂胆は分かっているのだ。それでも俺なんかに夢を見て壊されて叩きのめされる、愚かな俺の天才が愛しくてたまらないので俺はまた侑士の夢に浸る。

「ごめんね侑士、悲しませたね」
「ええねん、ええねん、かわいい子ぉは何のわがままを言うてもええものやねん、な?」
そうして俺は言葉の通じない侑士を抱きしめる。昼休みの終わる鐘が聞こえた。
作品名:お姫様で居られない 作家名:あおい