彼の恋愛事情
※主人公腐女子
※何でも行ける人向け
そういえば最近、熱い視線を背中から感じる。
詳しく限定すれば、私の隣の席の本田菊くんと話してる時だと思う。
たまに本田くんと話をすると、決まって後ろから、怨念とか憎しみがこもった様な熱くて痛い視線が私の背中を刺すのだ。
本田くんが好きな女の子かな、って思ったけど、はっきり言って本田くんはクラス内では非常に薄い存在である。女の子と話した姿も見たことがない。このクラス腐女子が私だけしかいないってどういう事。
きっと化粧の濃いケバケバしたリアJ…げふん、失礼、女の子達は「本田って誰的なァ?」とか言うだろう。話し方は仕様です。
「…?どうかしました?」
考え事の当人で、隣の席の本田くんが話しかけてきた。
私は考え事をすると、うんうん言う癖があるから気になったのかも。
黒ふちメガネにかかってしまう程長い前髪。
そのせいで、本田くんの顔はよく見えない。
こう…定番なメガネを取ったら美形とかないかな…!
「…あ、あの?」
「あ、ごめんね本田くん。考え事考え事。今度の新刊どんなのにしようか迷っててね」
そこから熱いヲタ話を展開しようとしたら――またあの視線。熱いっていうかもう呪いの類だよね?もうジェラシー?ジェラシーしかないよね。私いつか刺されるフラグですね、分かります。
そう思っていた矢先、LHRの時間に先生が席替えをすると言い出した。うちの担任やたら席替えするよね。クラスの大半が騒ぎだし、「好きな人となったらチョーヤバくない?」「ヤバいヤバい!」とどこからか聞こえてくる女子の声にお前らはヤバいしか言語がねぇのかバッカスwwwと脳内で軽く罵ってた私、乙。
「色々お話出来なくなってしまいますね」
「本田氏、いつでも私はお話する気ですぜ」
「貴女意外と自重しませんよね」
ハハハ、と笑っていると、こっちも自重しないと負けじと熱い視線が私の背中に。あのね、もうね、加減私の背中に穴あいちゃうよ?
本田くんが、クジ引いてきますね、と席を立ち教壇へ向かった。
どうやらクジ引きで席替えするらしい。男子の列が出来ている。
本田くんの背中を見送って、視界には本田くん…だけかと思いきや金髪頭が視界に入る。
誰だっけあの人…もしかしてDQN?とか思ってずっと凝視してたけど名前が思い出せない。
何か二人とも仲良さ気に話してるようだ。金髪DQNさん(名前が分からないから仮名)は意外とイケメソです。しかし、あの太い眉毛は遺伝なのか。面白いからいいけど。
本田くんがクジを引く番が来て、箱の中から一枚紙切れを取り出して先生に渡した。先生はそれを見て黒板に書いた座席表に本田くんの名前を書きうつした。
どうやら、廊下側から二番目の一番後ろの席らしい。本田くんが戻ってきた。
「本田くん後ろから二番目とかいいな」
「ええ?嫌ですよ、黒板見えづらいですし」
「まさかその眼鏡は伊達?」
「まさか。今度、コンタクトにしようか迷ってます」
いかんよ、いかんよ本田くん。
眼鏡男子ってだけで萌えるものがあるのにコンタクトだなんて邪道よ。眼鏡キャラは時々、そりゃあ時々、眼鏡を外して違う自分を魅せるというギャップをだね「語ってるのはいいですけど、女子の皆さんの番ですよ」ってええ?マジですか?
語り出すと止まらないのは腐女子の性なんです。治りません一生。どうせならまた本田くんの隣がいい。女友達がいない訳ではないけど、再三申してる様に、このクラス腐女子は私一人だけなんです。本田くんの隣になるには23番を引かなければならない。
クジ運は割りといい方だ。この前なんて商店街の福引きで副賞の図書券当たったしね。お母さんに微妙って言われたけど。
「っと…」
クジの紙っぺらの数字を覗くと、"27"番。本田くんの隣とは言わないけど本田くんの後ろの席だ。
これはこれで隣より話せるんじゃないのかい?
やっぱり私は運がいい方なんだな、えっへん。
「本田くーん!やったね、貴方の後ろの席だー!」
「それはそれは。今度も話せますし、周りの人も話せる人で良かったです」
…周りの人ですって?
全然見てなかったよ本田くんしか…。
本田くんが話せる人って大体私しかいなくな…あ、いたな金髪DQNさん?いや、でもまさかあの人が周りだとしたら本田くんの前の席か私の隣の席だぜ…?
「本田くん私の隣っt「よし、じゃあ席を移動するんだぞー!」
私の声は担任であるAKYメタボによって遮られた。覚えとけよ、あとでカップリングしてやるかんな。
本田くんが「移動しますよ?」と私を急かし、しょうがなく移動すると…新しい席付近に金髪が見えるのは幻覚ですか?
「アーサーさん、よろしくお願いしますね」
本田くんは机を定位置に置いて金髪DQN、もとい、あーさーさんに礼儀正しく挨拶する。
えっ…アーサー=サン?
ていうかこの人が私の隣?
「あ、私の隣エリザさんでしたか」
「菊さん!やっだー、すごく嬉しいです!他の子の前では腐ってる事隠してるんでたくさん話せますね!」
「えっ!?仲間発見?!」
勢いよく後ろを向けば、クラス委員をやっているエリザさんが本田くんと親しげに話してるではないか。あれ…本田くん友達いっぱいいねえ?私よりいねえ?
まさかの腐女子という名の仲間発見です。まだクラスも捨てたもんじゃなかったか。
「ふふ、貴女が仲間だって事は菊さんから聞いてたわ」
「なんとなんと!こんな美人な人が仲間だとは知らなかったなぁ…!本田くんも言ってくれれば…」
その時、後ろから熱い視線が。
あれ?何このデジャヴ?
ちょっと待て、背中焼ける、焼けるゥ!
恐る恐る振り向くと、金髪DQNさんがギラギラと睨んでるじゃないか。嫌な予感がして堪らない、いや、良い予感もするけれど。
「アーサーさん、席着かないんですか?」
「ああ、菊。今着くよ」
本田くんが話しかければ、人が変わったように優しく微笑みかける。ちょっと待て、お前。いや、金髪DQN様々!
「気をつけて、カークランド君は本田くんにゾッコンなの」
エリザさんが小声で私に伝えた事が本当ならば、私は今死んでいいかもしれない。てゆうか、ゾッコンって死語じゃないスか姉さん。
なるほど、じゃあ、あの熱い視線は間違いなく、この金髪DQN――――アーサー・カークランドだったのだ。
「おい、お前」
「えっ私ですかサーセン!」
謝ってどうするよ私――――そう思いながら相手を見ると…青筋が一本入ってるって事は、怒ってらっしゃる様です。
「俺の菊に触れたら死刑だと覚えとけよ」
なにその殺し文句?ちょ、いつ本田くんは君のになったのかな?
でも、そのセリフ萌えたから許す。私じゃなくて違う男に言ってくれてたら私喜ぶところじゃねぇ。
かくして、この席に幸せはくるのか否や。とりあえず、新刊は、アーサー・カークランド×本田菊に決定したことは間違いなく腐女子の私偉い子よね。
…そうだと、信じてる、超頑張るよ私。
END