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私が貴方の料理を食べる理由

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俺の国の料理の評価は決して高くない。
というよりもっとはっきり言ってしまうと不味い。
100年も殴り合いをしてきた隣国や、育ててやった恩を完全に忘れている大国なんかはそれをネタにからかってきたりして一切手をつけたりなんかしようともしないのはしょっちゅうだ。
けれど前者はともかく後者は俺の事をとやかく言える権利はない。と思う。
なのに今目の前に座って俺が淹れた紅茶を飲んでいる極東の、俺と同じ島国は料理に対して評価はしても、決して食べるのを止めたりしない。
今日だって紅茶と一緒に出したスコーンを、何だかんだ言いながら咀嚼している。

「どうして毎回火加減が上手く調節出来ないんでしょうね? 一気に焼いてしまっているから外側は焦げてるのに、中は生焼けですよ」

あまり自分から意見を出す事が少ないこの日本は、けれど食の事に関しては容赦しない。
他の事だったらあんまり言わないし、使わないような強い口調でそうきっぱり言い切る。
そして通常の俺だったら、そんな事を言う奴にはもう出したくないし、作りたくない。そう思うのに
いつも感想を言いながら日本は笑っているんだ。
いかにも美味しいものを食べていますって柔らかい笑顔で。
よく日本が欧米事情が分からないと言っているけれど、俺からしてみれば笑いながら料理を批評する日本の方がよほど分からない。
その日本の笑顔に釣られてしまっている俺も、傍から見れば分からないと言われるかもしれないが。

「……なぁ、日本さ」
「はい? どうかしましたか?」
「毎回毎回そうやって何か言うなら、無理して食わなくたっていいんだぜ?」
「問題点がどこにあるのかを挙げなければ、いつまでも進歩しないではありませんか」
「確かにそうだけど……。って違う。そうじゃなくてだなぁ……」
「それに私だったら別に無理していませんよ。イギリスさんの料理は美味しいですし」

一瞬、俺は自分の耳を疑った。
というか耳じゃなくて、音を受信して理解する脳を疑った。
日本が? 俺の料理を? 美味しい?
目の前で相変わらずスコーンを食べている日本が味覚異常に陥ったかとも思ったが、それは有り得ないと首を振った。
日本は世界でも有名な美食大国だ。
それにさっき日本は、俺のスコーンに対して正当な評価を下してた。

「美味いってそれ本気か?」
「そうですよ。最近私のトコロではコンビニ食や携帯食、冷凍食品が発達してきていまして、それ自体は別にいいのですが、それで料理をしない人も増えてきてしまいましてね。上手に出来ないから最初からやらない人も多いのですよ。その点、イギリスさんはその人たちより何万倍も上手です」

それを聞いて俺は納得のため息を吐いた。
要するにアレだ。『何もしないでいるより、何かして失敗した方が何万倍も尊い』とかそういうニュアンス的な。
そう思っていたのに

「それにコレには最大の調味料が入っているんでしょう?」
「は?」
「だから私には美味しく感じられますよ」

日本の言葉が頭にまで届いて、意味を理解した瞬間、別の言葉が頭に浮かんだ。
『料理の最大の調味料は愛情』

「ば……っ! 誰がそんなもん入れるか、ばかぁ!!」

俺はそう反論したのに、日本は口元を隠してしきりに笑うだけだった。