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笑顔の威力

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 いつも思ってることがある。

 くだらない誹謗中傷の類や、あからさまな敵意に
 思い切って切り返してやったらどんなに心が晴れるだろう。
 自らの保身にしか興味のない輩に溜飲がさがる。
 劣等感を糧に嫌悪する輩に靴の裏を舐めさせてやれる。
 愚鈍な輩が憤慨する姿をあざ笑う。



 だが、それをしたところでどうなる?


 私はいくつもの骸を踏みつけてきたのだ。
 血肉の池を作ってきた。
 その報いを受けていると思えばなんのことはない。



 ただ、少し・・・・疲れるだけだ。
 そう心が少し減るだけだ。


 ただの白い紙きれに没頭しようと意識を戻すと自分ひとりしかいないはずの部屋に他人の声がする。
 「おっかねーの。」
 目の前を見れば私の頭痛の種を如何なく増やしてくれる子供がいた。
 今一番会いたくない相手だった。
 「何がだね?」
 「あ、元に戻ってる。」
 小首をかしげて小動物のようだと言ったらきっと暴れるんだろう。
 起こりうる部屋の惨状を想像してやめておいた方が賢明だな。
 それにしても何を訳の分からないことを言っているんだ、こいつは。
 今日は相手にする気にはなれない、早々に退室願おうか。
 ここに来た目的を察して引き出しを開けようと手を伸ばすと。 
 「つまんねーの。」
 はなはだ失礼なセリフが降ってきた。
 「君を楽しませる義務は無いよ。・・人払いをしていたはずなんだがね。」
 極力冷たい言い方で突き放す。


 後で中尉にひとこと言っておかないと。
 彼女も子供に甘すぎる。
 資料室の鍵を渡して、用は済んだとばかりに己の名を連ねる作業に没頭する。
 踵を返して立ち去る気配が無いのをいぶかしみ、ペンを止めずに言葉を投げた。
 「まだ何か用があるのか?手早く頼むよ。」
 「・・・・あのさぁ。」

 続く言葉をにごして言いよどむとは珍しい。
 何か言いにくいことなのか。
 子供相談室をするはめになるとは、な。
 あからさまにため息をつく。
 ペンを放り投げたところで思いがけない行為に出られた。
 
 パチン。

 一瞬何をされたのかわからなかった。
 「気合入れろ!みんな怖がってる。」
 温度の違う両手で挟まれた己の頬。
 いつもは見下げる顔が上にある。

 「へこんだアンタを見るのは楽しいけど、皆がかわいそうだから。」
 マスタング部隊の面々は触らぬ大佐に減給なしとばかりに遠巻きに見守ってるばかりで。
 肝心の中尉もこうなると何も手立てがないらしい。



 目の前にはエンシェントゴールドに包まれた満面の笑み。
 意外というかなんというか。 
 つくづくお人よしというか甘ちゃんに出来ているな。
 「上官に手を上げるとはいい度胸だな?鋼の。」
 頬に添えられた腕をとって。
 「アンタの大切な部下の気持ちを代弁してやったんだろ、これぐらい多めに見ろよ。」
 「聞く耳もたん、これから大幅な休憩時間をとるから付き合いたまえ。」
 「はぁ~~?それってサボりってやつじゃ・・・やだよ、俺中尉の弾丸受けるの。」
 コートを腕にひっかけてさっさと執務室を後にする。
 「君に拒否権はない。」
 「あんた、いきなり絶好調過ぎるだろ!」


 なんだかんだ言って。
 抵抗らしい抵抗見せないのは了承したということだろう?
 執務室の重い扉を開いた時には文句を言う部下は一人もいず。
 「やだってば!」
 ああ、一人いたか。
 当事者張本人。
 だが、抗議など聞く耳もたん。



 「私の部下のために、付き合いなさい。」
 と、言ってやれば。
 「その顔、反則・・・。」
 と、帰ったきた。


 ときどき本当にこの子供の言う意味が良くわからないが、とにかく。
 自然と綻ぶ口元を引き締めることはせずにいた。


 真冬であっても、ふと春のような陽気の日の出来事。

作品名:笑顔の威力 作家名:藤重