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Ayağımı 1

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私は生まれた時から車椅子と一緒でした。
まあ正確には生まれたときには歩けないからそうですね…5歳?もうその辺の記憶は定かではないですが。
とにかく私はずっと車椅子で生活していて、降りる時なんてのは寝る時とトイレ、お風呂位なもので、だから車椅子は私の嫁なんて言ってた時期もまあありましたよ私にも。
今はそんな黒歴史満載な中学時代をなんとか抜け出し…抜け出しましたよ、私は春からぴっちぴちの高校生…おっと失礼。

とまあソレはさておき、車椅子だと不便なのは背の順がいつも一番後ろであるという事です。
コレはまあ車椅子の機動力と一番後ろの人に面倒見させようって言うアレな訳ですが、いかんせん背の高い人というのはそう言う事に全く興味がないのであります(私調べ)。
先生に任されると渋々やりますが、ソレも私が断れば「あ、ラッキー」程度にやめてしまいますし、ソレこそ無理にやらせていじめの的になっても困ります(私が)。
しかし、それでは移動が大変不便です、皆と同じに集会に出発しても私だけ遅れての到着、辛い階段。
全く歩けない訳ではなく、片足がまあちょっと使えるので片足で頑張る訳ですがいかんせん辛い。
昇りは先生に頼んで運んでもらう訳ですが、コレがまた申し訳ない。

そして入学式のいまその問題に直面しそうな訳なのです。
私の前に立つ人物、つまり背が教師の目測で一番高い人物な訳ですが、深緑のパーカーによくわからない白い仮面を顔につけ、髭を生やす姿そうまさに不審s…見た目が不良(不良という表現が正しいのか私にも分かりかねます)なのです。
これはだめだ、私の移動にはノータッチだろうな、そんな風に私の本能が告げます。
その時になって担任の先生がその生徒に向かって告呼びかけます、後ろにいる本田君の補助をしてやってくれないか、と。
彼は振り向き私の姿を見てこう言いました。

「お前ぇさん、いつからそこに…!」

そんなに驚いた顔をして、気づいてなかったのかと、いくら私が座高分しか身長がないからといって車椅子に乗ってるんだから気づくだろうと…。

「そうか!忍者なんだな!気配を隠して背後に…」

マテマテマテ話が見えてこない。

「あ、あの、貴方が周りをよく見ていなかったのと、私が視界に入らなかったから、気づかなかっただけでは…。」
「…そっか…。」

なんでそんながっかりした顔するんですか!こっちが悪い事したみたいな気分になるじゃないですか!

「あの、なんかすいません…」
「い、いや、勝手に勘違いした俺が悪いんでぃ!お前ぇが謝る事なんざねぇって!」

あれ、なんか素直で良い人そうじゃないですか。やっぱり人は見た目で判断する物じゃないですね、仮面は未だ怪しいですが。

「あ、えっと、お前さん、足が悪ぃのかぃ?」
「ええ、すいません」

謝ってしまうのは昔からの癖なので仕方ない。

「補助ったってなあ…うーんここは3階だろ…」
「あ、いえ、無理にとは言いません、降りるのはだいぶ慣れていますので」
「けどなんかおお前さんひ弱そうだし、ほっとけねぇだろぃ…」
「こうみえて結構腕力あるんですよ…ってうわあ!」

突然抱え上げられそうになり慌てて身を引く。

「ちょ、なんで首振ってるんでぃ」
「わわわ私重いですよ!」
「んなこたぁねえって、どっからどう見ても軽そうじゃねぇか…ほらよっ…と」
「ひえええぇぇぇぇ…」

片腕で赤子のように抱えられる、恥ずかしい。なんですかこれ、羞恥プレイの一種ですか。
これじゃあ私の腕は首に抱きつくか胸に当てるかどちらかじゃないですか!なんですかそれ!いくら男同士でも恥ずかしいでしょう!

「ちょちょちょっと、降ろして下さいぃ…」

恥ずかしさで顔が赤くなってるのを隠そうと彼の肩に頭を沈める。
甘い、匂いがする。

「恥ずかしいのかぃ?」
「あっ、あたりまえですこんな…」
「ふーん…お前さん、なかなか別嬪さんだな」
「はぁ?!」

血迷ったか!

「いや、近くで見たら肌真っ白でツルツルだしよ、まつげなげぇし、日本人形?みてぇだ。」
「なっ、なにを…」
「ん?あれ、こう言う時って別嬪さんであってるよな?」
「あってません!私は男です!」
「ははは!わかってらぁ!なんかお前さん、ころころ表情が変わっておもしれぇな!」
「からかってるんですか?!」
「さあてな?っさ、出発すんぞ?」

そんな間にも皆は動き始めていて、彼は空いたもう片方の手に車椅子を抱えていた。

「…力持ちなんですね」
「まあなー、こんぐらいどうってこたぁねぇよ」
「そういえばお名前、お聞きしてなかったです。私は本田菊と申します」
「俺ぁサディク・アドナンってんだ、宜しく頼むぜ、お菊さん」

お菊さん…?

「あの、お菊さんて…」
「ああ、なんか名前も日本人形っぽいなと思ってな、嫌かぃ?」
「いや…同級生にさん付けされるのは…」
「そか、じゃあ菊って呼んだほうがいいかぃ?」
「…じゃあ、それで、私は、サディクさんとお呼びしますね」

この際名前で呼ばれるのは気にしない事にしよう、慣れないですけど…。

「つれねぇなあ、菊もさんなんていらねぇんだぜぃ?」
「いえ、なんとなく気が引けてしまって…」
「ま、いいけどな、いつかさん付けじゃなくなったら俺は嬉しいけど、ははは、なーんてな!」

なんでこの人はこんなに屈託なく笑えるんだろう…いや、危うく存在を忘れかけていた仮面がまだ自己主張を続け私に警戒心を与える訳ですが。
それでも、仮面を気にさせなくするほどにこの人の笑顔は強い。

「それじゃ、階段降りるぞ!」
「えっちょっ、わああああなにこの謎の浮遊感こわい!」
「ちゃんと俺にしがみついといて下せぇ!」
「スピードダウンすれば良いじゃないですかぁぁぁぁぁ…」

こうして、私のスクールライフは幕を開け、彼との毎日が始まったのです。
作品名:Ayağımı 1 作家名:谷河あつし