拳に宿るもの。
「君の拳には何が詰まっている?」
人気のない資料室にまでわざわざ足を向けて、まで何の話をしたいのか。
ただのさぼりの口実と言ってしまえばそれまでのような気もするけど。
この男は時々突拍子もない事を聞いてくる。
それが本当にどうでもいい事だったり、酷く哲学的だったり様々だ。
今回のこれはいうなれば・・・感傷?
「有体に?」
「いいや、真摯に。」
心持ち嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。
読みかけの文献をわざわざ閉じてまで議論することでもないと思うけど。
ひと段落ついたし、キリもよかったし、気が向いたから。
俺様は優しいからな。
たまにはつきあってやろうか。
「〝怒りと〟〝希望〟」
「なるほど。君らしい・・。」
うなづいて。
納得したのか自己完結のまま奴の思考外に追いやられそうだったので意趣返しに聞き返してやる。
「アンタは?アンタの拳には何が詰まってんの?」
別に、興味がったわけじゃない、決して。
「有体に?」
「いいや?」
暫しの交錯。
まなざしで交わすお互いの心理。
数秒ののち口から出たセリフにとっさに両手を打ちならそうかと思った。
満面の笑顔でのたまう。
「君とアルフォンス。」
チッチッチ・・・。
「人が真面目に答えてやってんのにいい度胸だな?」
こめかみの血管がブチ切れそうだ。
「おや、真面目に答えたつもりだが?」
いけしゃぁしゃぁと。
苦手な喰えない笑み。
自分の感情を出すことを酷く嫌うこの男。
普通に喜怒哀楽はあっても心の奥底のマグマのような灼熱は初めて遇ったあの時以来一度も垣間見せることはなかった。
深淵の底にあるその焔はいつか噴火する。
机に乗り上げて軍服の襟を掴みつつ
「じゃぁ俺も、真面目に訂正。」
「ん?」
その爆炎が自らを焼かないように。
「〝願い〟と〝祈り〟」
「君にしては随分と他力本願だな?」
その心底楽しそうな顔に右手をお見舞いしてもいいだろうか。
どうとでも言えよ。
「まぁね。もともとつかめるものじゃないし。」
俺たちの道のりにそんな感傷はいらない。
なんだってこんな厄介な奴を・・・・。
「そうだな。つなぎとめておくことは出来ないな。」
酷く臆病なライオンを━━━━━。